まとめ
・GIC修復は有効な保存修復の一手である
・充填後の感水性に細心の注意を!
昔からグラスアイオノマーセメント(以下、GIC)が好きである。その理由をうまく説明することができない。ただ、学生時代に講義で習ったARTテクニックは素敵で魅力的な手法だと思った。歯科後進国へ行ってARTテクニックで歯科治療している自分を夢想した。
※1ぎゅんたが臨床に飛び出した時代はコンポジットレジンが信頼に足る接着修復技法として台頭し始めた頃だったと思う。周囲のドクターは、充填は全てコンポジットレジン(以下、CR)を用いていた。アマルガムや金箔充填はさておき、そこにはGICの姿はなかったのである。臨床で触れるGICはインレーのベースやライニング、メタルコアの合着ぐらいであった。次第に充填用セメントの存在が頭から抜けていった。
研修医を終えたあとは母校の保存修復の講座に入局し
遊び呆けて付属病院で診療に従事していたが、そのとき、外来の材料棚の中に充填用GICであるフジ\GPとレジン添加型のフジULCが在ることに気づいた。保存修復講座の医局員が、CRしか使用しないのは思考停止かもやしれぬと考え、症例によってCRとGICを使い分けてみることにした。当時は口腔内ケアが不得意な施設の患者さんの受け持ちがあったので、彼らの根面カリエスの充填にフジ\GPを用いた。理由は、防湿や出血のコントロールが難しかったからである。テクニックセンシティビティの高いレジンではなくファジーな性質のGICの方が良質な充填ができると考えたのだ。審美性は求められないし、GICの高いフッ素徐放
※2性に期待したのであった。ラバーダムはかけられなかったが、防湿下で充填、バーニッシュを塗布して十分な硬化時間を確保した。果たしてそれは、期待以上の結果であった。最初は脱落しそうで心もとなく考えていたGICは、しっかりと窩洞に収まり続けていた。見た目も案外に悪くない。こうなると生体親和性の高い無機材料であるGICが魅力的なアイテムに感じるわけで、それ以来、GICは私の充填時の選択材料の候補であり続けている。充填後の感水の防止と硬化時間の長さは致し方のないところだが、正しく使えばしっかりと期待に応えた仕事をするいぶし銀な充填材料である。
下顎大臼歯の咬合面の充填には、審美性の観点から充填しなかった(CRで隆線や裂孔を作るのが楽しかった。
そのクオリティは聞かないで欲しいが)ものの、上顎臼歯部の一級窩洞の咬合面う蝕には用いた。その場合はフジ\GPではなくフジULCを用いたりしたものである。どちらの材料にせよ、のっぺらとした表情の充填にならざるをえないが、上顎の臼歯部にはそこまで審美性は求めらない。
純粋な接着力を期待される症例でなければ、GICの適応はかなり広いと考える。高密度充填型のフジ\GPは咬合面にも適応できる強度がある。「充填に使ったことがないから」使っていない先生方もおられると思うが、WSDや根面カリエスの症例でお使いになられてはいかがだろうか。感水には注意が必要だが、それをクリアすれば期待以上の成果を挙げてくれる修復材料であることに気がつくだろう。接着システムを必要としないので保険の点数的に微減してもコスト的には悪くない。
充形多くの充填処置はCRで対応できるが、歯頚部のWSDや根面カリエスは、防湿や出血の面でGICが有利だと考えられる。それは、レジンは油であって、水分があれば物性を発揮しえない(水は分離剤として働く)からである。また、接着面が血液で汚染されると、たとえ水洗しても接着強さが有意に低下することが知られている。接着にムラがあるCR修復の予後は良くない。着色、辺縁チップ、二次カリエスの原因となる。
GICの接着強さは、接着性レジンのそれとは比べ物にならないほど低いが、臨床的に、適切に充填されたGICは脱落することなく口腔内にて機能し続けてくれる。すぐにでも脱落しそうな心許ない接着力にすぎないが、これはどういうことか。おそらくは、接着性レジンが口腔内で接着力を発揮するには、テクニックセンシティビティがGICに比べて大きいのだろう。一見して接着されたかに見えるレジンには、接着界面で接着が成立していない部分を含んでいるケースが多いのではないか。強力な接着力があるので、一部の接着が壊れていても全体としては「くっついている」のである。GICは接着力が低いので、なるほど適当に充填されれば脱落しやすいだろうが、案外に脱落しないのは、歯質と接触している界面全てで均等な接着力が作用してからであろう。弾性係数も象牙質に近いので、咬合力をうまくいなしていることも考えられる。そして、レジンほどテクニックセンシティビティは大きくない。たとえ窩洞が血液で汚染されていようが、呼気で湿度が高かろうが、窩洞を水洗してエアで乾燥させて充填すれば大きな問題をおこさず接着する。
GICは操作する側からするとレジンに比べて許容してくれる懐が広いのである。注意するべきは硬化反応中は水をシャットアウトして感水させないことである。ラバーダム防湿やバーニッシュ塗布はとても有効である。
なお、GICは硬化後は水分の存在を必要とする。これは、GICが「水を構成成分に含むセメント」だからである。ユニークな材料である。
製品ぎゅんたはGCのFuji\GPエクストラ(A3)を使用している。
※1
いまはこのような気持ちはない。虫歯の洪水の歯科後進国というのは、その現地の伝統的な食生活が砂糖と加工食品にまみれた先進国の現代食に蹂躙された結果に過ぎない。虫歯の治療をする前に砂糖の洪水をせき止め、食生活教育をしなくては虫歯治療の自転車操業となる。しかしARTテクニックは、このようなシチュエーションの虫歯お治療に於いて変わらず有効であろう。
※2
フッ素が特別にう蝕予防に有効であるとは、教科書やメーカーが唱えるほどの効果は全くないと考えている。ないよりマシかもしれない、おまじない程度のものだろう。エンドで貼薬剤に特別に効果を期待しないのと同じである。iPadから送信