2014年01月30日
拳々服膺
私を贔屓にしてくれている患者さんのひとりが認知症になっていた。この方は、勤務したての頃からの担当患者さんで、よく分からないが私のことを気に入ってくれたようで、私以外のドクターの治療を望まない人であった。
このところ、この人の名前を義歯調整のフダと共にアポ帳で目にしていたのだが、私が呼ばれることはなかった。義歯調整なら私でなくて(誰でも)よいのだろうと、考えていた。
今日、この人のアポが入っていた。内容は義歯調整になっている。このところ頻繁に来院さられていた気がするが、シビアな調整なのだろうか。顔を合わせるのは久しぶりだなあと思いながらチェアにつき、挨拶をする。いつもの笑顔を見せてくれるのだが、何処となくおかしい。まるで初めてあったかのような、ちょっとした距離感があるのだ。すわチェアサイドに立つ付き添いの旦那さんが、「実はこいつ(妻が)認知症になってしまいまして、入れ歯が痛いと口にいれてくれんのです」とおっしゃる。私のことを忘れてしまっているので、初めて会ったかのような態度なのである。
上顎前歯には、当時の未熟な私がいれたメタボンブリッジが入っている。下顎はケネディ1級で、ポステリアストップのためにPDが装着されている。痛みは、果たしてリンガルバー下の潰瘍であった。着脱するだけで触れて痛いのである。上顎前歯を保護する上でも、せめて普段は義歯を装着していてもらわねばならない。なので、最低限、装着時に痛みを感じないようにせねばならない。推進現象と咬合接触をチェックしつつ、リンガルバーの内面をリリーフ。着脱で痛みがなくなったことを確認して、ロールワッテを噛ませたりタッピングさせたり、機能時に痛みが出ないかの確認、リリーフ。調整により、ひとまず装着したり噛んだりして痛みがなくなってきていることを喜ばれている。ふと、もうこの人の記憶には俺がいないのだなと思うと涙が出てきた。きっと脳の記憶を司る部分の神経伝達機構に障害がでて記憶にアクセスできなくなっているのだろうが、実質、記憶を忘れ去られているに等しい。認知症は、当人が辛いことや死の恐怖から解放されるために起こるとまことしやかに言われることがあるが、そんなわけがない。人は最後まで懸命に生きようとしている。脳の機能に不調をきたして起こってしまう望まれない状態(病気)でしかあるまい。なにより残酷なのは、残された周囲の人たちがどれだけ悲しい思いをするかだ。認知症が憎い。
2014年01月23日
2014年 KAVO ルートキャナルトリートメントセミナー(2/11大阪)
思うところあって参加することにした。
石川県にいる田舎者にとっては、大阪で10時からのセミナーはJRでの日帰りが可能なのでまことにありがたい。飛行機に乗るのが怖いわけではないのである。
このセミナーは座学であるが、ヨーロッパのendodonticsについて学べるようだ。
日本に於けるエンドの先端は、そのほとんどが米国式(ペン大)であり、欧州を含め世界的に同様のものと思っていた。その一方で欧州式エンドなる独自の世界もあるのかもしれないと聞けば、エンドが好きないち歯科医としては興味をそそられる話であろう。
保険診療でエンドをこなす私にとって有益な情報や知識、ヒントが得られればこの上なくありがたい話である。満席で受講できませんといわれたらどうしよう。
2014年01月21日
小児の歯科治療は常に不安定である(院内勉強会用レジメ)
なぜ不安定なのか?
・我慢することが難しい
・おとなしくジッとしていられない
・理解力に乏しいところがある
・通常、歯科治療を怖がっている
加えて
小さな口腔内、小さな患歯、唾液の洪水、乳歯独特の形態
不安定だと、どうなる?
歯科治療に非協力的な傾向にあり、治療の質が安定しにくい。
でも、歯科治療は完遂できる。
これが破綻した場合は?
「泣き」となる。
甘えからくる嘘泣きの場合は声かけでリカバリーが効くことが多いものの、痛みと心理パニックからくる泣きはリカバリーが効かないことが多い。どちらにせよ泣かれると治療が困難となりテンポが崩れるので、我々はとにかく泣かせないように気を配るべきである。破綻させない範囲にコントロールしなくてはならない。
破綻させる最も大きな要因は「痛みに対する恐怖」である。
そもそも「歯科治療=痛い」と強迫観念もって入室しているケースが殆どなので、スタート地点からして閾値が低く不安定なのである。
できること
すぐに実践できるうえに効果的と思われる手法に、意識して「痛い」を抜いた声かけがある。
小児にとっては「痛い」も「痛くない」も同じ「痛」であり、負の言葉がけとなる。こちらは善意でって「痛くない」と小児に伝えるのだが、肝心の小児は「痛」でより不安定になる。「痛くない」を別の言葉に置き換えるだけでも反応が違う。小児は「痛くない」を全く信用しない。
他にできること
・無痛的浸潤麻酔(理想)
・手早い処置
・常に言葉をかけ続けるテクニック
・婉曲語法の駆使
・TellShowDo法
etc
スムーズに治療を終えた経験が増えるに従って、小児は利口に協力的になってくれる。笑顔で帰すことを「心に貯金をして帰す」といい、泣いたまま帰すことを「心に借金をして帰す」というそうである。小児を笑顔で帰すことを目指しましょう。
2014年01月17日
抜髄後に打診痛が引かないのは
>akichan 様
コメントありがとうございます。
返信を書いているうちにコメント欄に記述するには長々しくなり、読み辛いと思いましたので記事にします。
抜髄後の打診痛(咬合痛も含むことにします)
考えられる要因は
・根管の見落とし
・仮封が高くて早期接触をおこしている
・根尖部を大きく壊してしまった
・(抜髄時に感染させて)残髄炎になった
・洗浄不足
こんなところでしょうか。
まず、抜髄は治療後に打診痛が出ます。2日ぐらいは叩くと痛いです。なので、昔から抜髄後の患歯はなるべくバイトさせないよう平坦にしているわけです。もし仮封が高すぎて早期接触を生じていたらかなり強い痛みが出ます。噛めませんと言われると思います。仮封は、抜髄処置が終わって気が抜けがちなタイミングにある最後の砦です。確実な封鎖と咬合接触のない仮封をしなくてはなりません。術者患者とも疲れているところに麻酔も効いていますから、早期接触見逃しやすいステージにあるともいえます。
仮封がばっちぐぅ(死語)であれば、通常、一週間も経過すれば、タッピングで違和感や痛みうぃ訴えても、自発痛や噛めないほどの痛みはないはずです。ここで痛みがあるようなら、しつこい痛みと考えますが、まずは根管の見落としを考えます。よくあるのは上顎6のMB2ですね。他、下顎前歯や第一小臼歯で2根管のことがあります。ここに感染歯髄があるとすれば、痛みや違和感が残ると考えられるでしょう。一番嫌なパターンです。
他に考えられるとすれば、根尖を破壊してしまった場合です。ファイルを根尖孔より出せば破壊してしまうリスクがでます、
我々はネゴシエーションで根尖外にまずファイルを通過させますが、この時のファイルが#10以下であれば術後痛はさして出ないようです(リカピチュレーションは#10で)。しかし、#15を通過させると痛みが出やすい。これは#15以上のファイルを根尖孔より通過させると、根尖セメント質の剥離が生じるためらしいです。
私も以前は#10Kファイルでネゴシエーション後には#15も通過させていました。ファイルの交通をより確実にしたいがためであります。今は#10だけにとどめています。なるほど、術後の打診は出ても程度が小さくなりました。
もし根尖部を壊してしまった場合…アペックスで#35ぐらいのファイルをうっかり正回転させすぎてEMRがピーッと鳴るシチュエーションです。根尖が壊れていることのn多い感染根管はともかく、抜髄根管は#10以上のファイルを根尖より通さない方がよいのです。もし#35を通してしまったら根尖より急な出血が見られるはずです。根尖に炎症性病変がない根管で出血してくるのは、まず根尖が壊れたからに他なりません。こういう場合、根尖セメント質は大きく破壊されているでしょうから、術後にしつこい打診痛が出るでしょう。根尖が生体に修復されるのを辛抱づよく待つことになるでしょう。
歯髄を取り残せば残髄、術中に感染させて取り残せば残髄炎になります。
経験上、残髄はさして自発痛や打診痛を訴えませんが、Vitalですからファイル挿入時に痛みを訴えます。抜髄して次の診療時に「痛みはどうですか?」と問うて「最初は痛かったけど、いまは大丈夫です」と答えられ、シメシメ上手くできたわい、と安堵の気持ちでファイルを挿入すると痛みを訴えられるのはよく経験する通りです(私だけか?)。残髄は、たいていはファイルの操作が不自由な環境での施術に起因するので、浸麻をして根管口明示とストレートラインアクセスの確認、再形成をして除髄することになります。
残髄炎であっても、感染歯髄の除髄を行いますが、麻酔が少し利きにくいことと、除去後しばらくは(残髄それよりも)痛いようです。最悪なのが、ネゴシエーションができていない根管を感染させて残髄炎にしてしまった場合で、なんとしてもネゴシエーションを達成しなくてはならなくなります。安静に放置しておけば、生体の素晴らしい生命力・免疫力で不顕性化してくれるでしょうが、予後としては不安を残すものです。もしネゴシエーションが出来ずに、根尖まで触れることのできず取り残された歯髄があったとしても、感染さえさせなければ予後はさほど悪くありません。逆にネゴシエーションできない根管で感染させてしまうと相当に不利になってしまいます。抜髄で重要なのは感染させないことにつきます。どんなエンドドンティストも、抜髄時には決して感染させないことを強調するには理由があるのです。
また、洗浄が不十分で、根尖部にデブリがあれば痛みを起こしやすいでしょう。ファイル操作等で根尖外にデブリを押し出しやすい状態だからであります。根尖外に出なければ痛みは起こさないのではないかと思いますが、デブリが在っていい理由もないので常に洗い流されているべきでしょう。小林千尋先生は根管洗浄の重要性を強く説いておられますが、その通りだと思います。デブリは細菌を含みますから、感染歯質共々除去せねばならないのです。
炎症性の痛みは細菌が修飾する面が大きいですから、なるべく無菌的にエンド治療を進めることになります。エンドは感染との戦いです。再感染を防ぐ一方で感染源を除去する口腔内外科手術といえます。
打診痛が強く出ている時は、上記の要素を確認してみてください。
最悪、感染が生体の免疫力の許容内なら痛みは引いてくれます。慢性化しているだけですけれども、少なくとも患者さんが痛くないと訴えてくれるところまでいけばお互いに気持ちにゆとりができます。
根管によっては治療難易度が高く、術者によっては「治せないものは治せない」場合は多くあります。自分が治せないケースをどれだけ少なくしていけるか、その熱意が胸の中にあって切磋琢磨していける姿勢であるかが大切だと思います。真面目にやってもテキトーにやって同じ結果だと達観してはなりません。
色々と偉そうに述べていますが、上記の内容は、私の経験している失敗からくる考察が含まれています。いまでも同じような失敗もします。こんな未熟な腕でブログ書いてていいのかとよく思うものです。エンドは難しいですけれども、根管内は歯科医師しか触れることのできない聖域ですので、引退するその日までエンドの治療の腕を磨いて行きたいものです。参考になるところがあれば幸いです。
2014年01月10日
マスク・ジ・エンド
我々が診療中に装着するマスクは、通常ディポーザブルマスクであり、その大半はゴムタイプである。耳にゴムをかけるタイプのマスクである。紐のタイプもあるのだが、ゴムタイプほど一般的ではないようだ。
学生時代から一昔前まではゴムタイプのマスクを使っていたのだが、現在では紐タイプを愛用している。こちらに慣れるとゴムタイプには戻れなくなってしまった。装着が楽なのはいいのだが、ゴムの締め付けが強い安物だと次第に耳が痛くなってくるのだ。紐タイプは自分で結ばねばならない手間はあるものの、耳が痛くなってくることが殆どない。長時間装着し続けていてもなんともないというのは、集中して治療に臨めるということである。些細な不快感が術者のコンセントレーションを乱すのである。
なお、マスクの内側にエッセンシャルオイルを僅かに垂らすことでリフレッシュが可能である。垂らしすぎると表面に滲み出して格好悪くなることには注意。
これを応用し、エッセンシャルオイルを垂らしたガーゼを患者さんの顔を覆うタオルに挟み込んでおくと、なんちゃってアロマテラピーが可能である。PMTCのときにでもどうぞ。