2013年10月31日

(後編)残髄予防と根管殺菌について コスモデンタルキュア導入へ

cosmocure.jpg

溶液による根管洗浄の他に、なにか効果のある方法がないものか考えた。

1.イオン導入法
2.歯科用レーザーの応用
3.ヒールオゾン
4.根管内にサホライド塗布

…ぐらいだろうか。
この中の本命は、昔から脈絡と受け継がれているイオン導入法だと思われる。しかし勤務先にイオン導入はない。そして時間がかかる上にラバーダムが必要である。なので、意外に保険診療向きではないかもしれない。排膿が止まらないような根管に辛抱強く適応するとよい結果が得られると聞くが、どうなのだろう。古い手法だが、近代エンドにあって再評価されるべきものだろうと思う。手軽に短時間に適応できないのが欠点か。

歯科用レーザーの根管への応用は、効果が高そうで期待できそうだが、レーザー光を直接当てなくては殺菌効果が得られないことがネックとなる。照射チップも、専用の細く硬いものを根管内に挿入して用いなくてはならない。根尖部の複雑な根管系を、直線的にならざるを得ないレーザー光で殺菌するのは現実的ではないと考える。利用するなら、逆根充時の根管形成時に用いるか、穿孔部の殺菌止血に用いるかが現実的であり、根管の殺菌に積極的に用いるには課題が残る。

ヒールオゾンは、いまはもう話を聞かなくなってしまった。
オゾンジェルを根管内に応用する云々は耳にしたことがあるようなないような、といったところ。興味はあるが触れたことはない。
オゾンは、単価の安いオゾン水を根管洗浄に用いる(とにかく大量の溶液で洗い流す)のが実用的ではないだろうか。

根管内にサホライド塗布は症例報告を聞いたことがない。サホライドは銀イオンの殺菌作用によるう蝕病巣の進行抑制なので、あながち無意味ではなさそうな気はするのだが。
調べたら、サホライドRCというのがあった。しかし症例報告を聞いたことがない。


え、残髄処置は…?
さて、お気づきのことと思われるが、これらは根管内の消毒・殺菌を目的にしているのであって、残髄予防は兼ねていない。ここで残髄予防を兼ねた根管殺菌を期待する器具を紹介することにしよう。


コスモiキュアとコスモデンタルサージ
昔からある器具であるが、あまり有名ではないようだ。
コスモiキュアは、研修医が終わって一年目のときにバイト先で初めて出会った記憶がある。高周波治療器の名目であるが、EMRと超音波スケーラーの機能もついているお得感のあるパッケージングであり、そこの院長は主にEMRと超音波スケーラー、高周波によるHys処置に使用していた。

そんなコスモiキュアであるが、高周波機能だけに独立させたコスモデンタルサージが登場した。
このたび私が購入したのは、このコスモデンタルサージになる。

なぜ購入したのか?
それは、高周波を利用して自分のエンドをより高めていきたいと願ったからである。
以下の項目の実現を期待して購入に踏み切った。

1.ファイルを根管に挿入した状態で通電することで、根管内を消毒・殺菌できる。

2.抜髄する歯髄にファイルを刺した状態で通電すると、根管狭窄部(生理学的根尖孔や側枝)の歯髄が熱で蛋白凝集を起こす。根管狭窄部に熱が集中して、そこで歯髄が切断されると理解すればよい(メーカーは「歯髄焼灼」と呼称)。
これは、現状の不確定な生理学的根尖孔での断髄による残髄のリスクを減らすことができると考えられる。また、熱による殺菌効果も当然、期待できる。

3.根尖よりファイルを突き出した状態で病変に通電することで病変の縮小を図ることができる。

4.プローブチップで通電すればポケット内の殺菌・消毒に用いることができる。

5.歯肉切除や止血といった、電メスと同様の使い方も可能。

6.ジアテルミーが可能。


...
色々とあるが、結局のところは、私のエンド臨床にある「確実な根管洗浄(による消毒)と残髄を起こさない抜髄に対する一抹の不安」に応えて欲しいという、大きな背景が理由にあるのである。

そして嬉しいことに、購入当初はおまけのように考えていた4.5.6.もかなり有益であることが分かりつつある。特に6.ジアテルミーは、まだ勉強と実践を始めたばかりだが、うまく使いこなせれば大きな武器なりそうな手応えを感じている。

ただし、週に一回あるかないかの自宅勤務時にしかしか使えないので、まだ理解しているところは少ない(ジアテルミーを含めたコスモデンタルサージの実際的な応用については、今後、ジャンル別に記事にしていきたいと考えている)。

ひとまず、私は残髄の予防と根管の殺菌を目的としてテルテックコスモデンタルサージを購入した。
この機械と心中するつもりで使って行く所存である。勤務先にはないので、週に一回(実家で)しか使えないのがもどかしい。


ご興味のある先生は…
特徴的な機器であるから、テルテックより説明を受け、デモ機の貸し出しを受け、実際に使ってみることから始めるとよい。抜髄時に通電する歯髄焼灼からから始めよう。

テルテックHP
担当:前川


まとめ
効果的な能力が謳われる器具であるにしろ、コスモデンタルサージは、従来からのエンド治療の上に成り立つ追加的な扱いとなる。即ち、根管内の感染源を徹底除去する原則は変わらないし、コスモデンタルサージは感染源を徹底除去するものでもない。感染源を除去して行った根管を高周波のアプローチでもって消毒するものである。

コスモデンタルサージが私の臨床を底上げしてくれる力となることを願うばかりだ。
posted by ぎゅんた at 22:27| Comment(2) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年10月25日

抜歯後の縫合にこんな方法は

しばる.jpg

まとめ
ぎゅんたは口腔外科の先生方を尊敬しています


抜歯後に注意することは、とにかく血餅の形成と保持である。
これが止血とドライソケット防止になり、術後の不快な出血と痛みを予防すること(患者が最も望むこと)につながるからである。

血餅は、抜歯かに溜まった血液の凝固反応で形成されるが、傷口が大きければ物理的に脱落しやすくなるから、それを防止するために縫合を要する場合がある(抜歯か創面をギョウザのように封鎖するのではなく、縫合糸でネットをはるような感じ)。

通常、抜歯かの縫合は単純縫合が多いだろうし、基本的にはそれでカバーできるものであろうが(それでは記事にならないので)、もう一つぐらいの縫合法を知っておくとよい。

これは今の勤務先に勤め始めてすぐに教えてもらった縫合法で、覚えておいて損はしない縫合法なので、単純縫合にプラスして知っておくとよいとする次第である。

用いるもの
・4-0絹糸(針付縫合糸だと楽)
・持針器(カストロビージョ型だと楽)

針を通す箇所は四ヶ所で、結紮は一回で終わる。
まず、近心頬側の歯肉に針を通してから(@)、近心舌側に抜けるように針を通す(A)。通したら、それを遠心頬側から刺入して舌側に通し(B)、遠心頬側に抜けるように針を通す(C)。
通したら、針を舌側のループに絡ませてから(D)最初に刺入した近心頬側牽引して結束する(E)。というもの。
文章にすると分かりづらいので、絵で説明しよう。

...
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ちなみにこれはぎゅんた画ではありません。私の美術の成績は2です(10段階評価)。

とりあえず、なんとなくイメージがつくと思う。
何回かやれば体で覚えられるので、時間に余裕のある時に実践してもらいたい。



余談
止血バッチリだから綺麗に治るね!と判断して帰した患者に限って、ドライソケット(軽微)を起こしてくることがあるが、気のせいだろうか…(逆に「血餅が少ない気がするけど大丈夫かなビクビク」の場合は案外になんともない)

昔の専門書に「ドライソケットはどんな熟練者の抜歯症例でも数%の確率で起こしうる」とあった気がするが、どんなものだろう?運が悪いとドライソケットになるとか酷すぎ。

あと、ワーファリン服用患者さんの抜歯後の止血で、ビタミンK依存凝固因子(U,Z,\,X:ニナクテン)の生成阻害からくるフィブリノゲン右矢印1フィブリン反応が阻害されていることからくる、謎の血餅(赤黒くプヨプヨした血塊。血腫ではない)が大量に出現する術後出血に見舞われるのも怖すぎ。重篤な場合は圧迫止血では止血しないので、思い切って浸麻して掻爬してコラプラグを挿入してガーゼを噛ませて圧迫止血することで対応できます。これは実体験です…お恥ずかしい。
posted by ぎゅんた at 21:54| Comment(2) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年10月18日

上顎智歯抜歯、残根抜歯に用いるインストゥルメント

器具たち.jpg

埋伏智歯は流石に手をつけられなくても、上顎智歯と残根は抜歯できなくてはならない。
特にエンドで保存できない歯は抜歯になるから、保存不可と診断をしたのなら術者が責任をもってExtに臨みたい。

弘法筆を選ばずと有名な諺があるが、実際には、弘法は筆を厳しく吟味したに違いない。質の高い使い慣れたものだけを愛用するのである。これは、文豪や漫画家が、自分に馴染んだ道具がなければ仕事ができないと呟くことに一致する。指先勝負の仕事人にとって道具の選択は死活問題なのである。いい道具を用いるかそうでないかで、結果に差が出てくるものだと思っている。

さて抜歯だが、その多くは根管治療で保存が望めない歯が対象となる。即ち、縁下に及ぶ深部カリエス、根破折、歯冠-歯根比の極端なアンバランス(歯根が短すぎる)、パフォ・レッジ・ジップ・トンランスポーテーションで技術的に治療が不可能になっている…等の患歯である。こうした歯は、細菌のリザーバーである口腔内と体内をつなぐ通路でもあるから、やはり抜去することが望ましいと考える(現在では否定されているが、病巣感染説の懸念もある。参考図書右矢印1虫歯から始まる全身の病気」)。

私が抜歯で愛用している器具は、以下のものである。
1.脱臼鉗子(東京歯材社製)
2.ラクスエーター(S2S)
3.YDMのへーベル #NM2(日大型)

1.は上顎智歯の抜歯に用いる。8がある程度正常な位置に生えており、歯根が癒合して単純な形態であり、隣在の7が動揺のない健全な歯であることが条件になる。麻酔後、8の歯周靭帯を丁寧に切断したあと、7と8の間に鉗子の先端を挟み込んで握ると、智歯は遠心に浮かび倒れるように脱臼する。あとは上顎用臼歯鉗子で抜歯すればよいだけだ。なお、この鉗子をかける前にへーベルで軽く脱臼させる力を加えて歯周靭帯をより挫滅させておくと確実である。ちなみに、智歯らしからぬ立派な根形態(タコさんウインナー状)の8には適さない。無理に使うと上顎結節を折ってしまう危険性がある。

へーベルでの智歯抜歯に慣れるに従い、この鉗子は出番が減るのだが、所持しておいて損をする鉗子ではない。記憶違いでなければ母校の口腔外科で「外道鉗子」と言われていた鉗子である(学生が見学に入った時は使用しないようであった)。正常に近い萌出をした下顎智歯抜歯に用いることもできる。遠心に倒す力を加える器具なので、要は遠心に歯牙がなければよいのである。

勤務先にある東京歯材社の脱臼鉗子は、現在では製造を中止しており入手不可能になっている。
なので、所望する場合は他社から販売されている脱臼鉗子を代用するかたちとなる。


2.のラクスエーターS2Sは、細い直のへーベルを想像してもらえればよい。主に単根の残根抜歯に用いる。先端が鋭い刃で、歯根膜腔に挿入すれば根尖側へと進めやすく、その結果、楔作用が発揮されて歯根が脱臼する理屈である。刃で歯根膜を切断しつつ楔作用を発揮させる設計であるから、回転運動をさせてもあまり意味がない。


3.先端がスプーンのような形状のへーベルで、若干の曲がりがある。
主に大臼歯の近心頬側隅角に挿入して用いるものだが、上顎智歯のExtにも用いる。

私にとって抜歯時に必要とするへーベルはほとんどこの二種であり、他を用いることはまれである。脱臼鉗子は最近はあまり使わないが、在庫に置いておくといざという時に心強い。

これらを用いても脱臼に至らない場合は、へーベルのかかる歯根膜腔が見つからないことが考えられるので、術野の明示を再度確認したり、ファインのバーで歯根膜腔をなぞってへーベルの「かかり」をこしらえたり、分割しての抜歯に切り替えることになる。
残根状態が長い歯根は骨性癒着を起こしつつあることが多く、デンタル上で簡単そうに見えていても実際は存外に難しいことがある。特に3.4.5の残根はハマりやすいので要注意。


※例外的に、殆ど溶けて棘のようになっている残根をノーマルエキスカを用いて抜歯することもある。


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posted by ぎゅんた at 20:10| Comment(4) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年10月15日

残せない歯はお別れなんです

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まとめ
・ダメなもんはダメ
・患者の希望に付き合って無理に残してもあまりいい目にあわない
・最終補綴を入れるのは慎重に


エンドで残せない歯や、保存することにメリットがない歯は、基本的に抜歯となる。案外に多いものである。

患者さんの全身状態によっては抜歯できないので残根状態にせざるを得なかったり、どうしても抜歯は嫌だという場合に限り、症状があることを承知の上で無理やり残す場合もある。

「患者さんが望んだから(叶えたい)」と無理やり残す道を選択せざるをえない状況も多いが、結果、たいていは徒労に終わるのではないだろうか。

満足なエンドも出来ない歯を残して補綴する…すると予想どおりにトラブルを抱えてくる。
そればかりか、歯が痛いんですけれど、と暗に非難じみた態度を取られたりするものだ。

「ダメな歯を抜きたくないからと無理して残したらそうなると説明しただろうボケ!」と感情的になるのはつまらないし精神衛生上よくないので、私は「ダメなもんはダメです」と抜歯の必要を説いているし、保存が無理な歯を無理やり残して補綴することもない。以前はやっていたが、払った努力に見合うリターンがあまりないので、現在では「残して欲しい」と言われても、補綴まですることはない。自分が救えないと診断した歯は、責任をもって「これは残せない」としているだけで、無理やりダメな歯を残す方向に付き合うことはないのである。ただ、無理強いして患者さんの意思を半分無視してまで抜歯をすることはない。

噛むと痛いとか沈むとかグラグラするとか常に違和感があるだとか、抜歯に至る歯の多くは患者さんの日々の生活の中で「自己主張」をしているものである。そして、そうした歯は「先生、この歯を抜いて下さい」と患者さんから望む状態にあるものだ。これなら抜歯することに間違いはない。

ちょっとした例外はPで動揺して噛めない痛いピンチ!状態の歯で、これは不良補綴を外しマージンの合ったプロビジョナルをセットし初期治療を行うことで症状が軽快することがある。ただし、最終補綴にもっていけるほど状態が回復することは少ないようで、プロビジョナルを入れたままか、結局は抜歯を選択することになるのだが。でも、最初から抜くよりも患者の意思を尊重している感じで、これは好きな手法である。
思うに、最終補綴に持って行くとトラブりやすいのだと思う。欠点は、プロビジョナルの保険評価が全くないことである(でも、プロビジョナルで親身になって付き合うと自費を選んでくれる患者さんが出てきたりするものだ。でも、私は経験ありません…ワーイ仮歯が入ったと喜んで来院しなくなる患者さんばかりです… (´・_・`)。

私が抜歯に用いているインストゥルメントやその他についてはまた別の機会に。
posted by ぎゅんた at 17:48| Comment(3) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年10月12日

顔面蒼白!根尖が詰まった? 〜 根尖湾曲とリカピチュレーション

COWの憂鬱.jpeg

まとめ
・手用ファイルの動かし方によって、根尖を削片で詰まらせてしまう
・詰まりは、根管の形態がストレートだと生じにくいが、湾曲していると生じやすい
・詰まりの防止にはリカピチュレーションが有効ではないか


※特別な注釈がない限り、本記事の「ファイル」は、マニー(株)のKファイルを意味しています


はじめに
手用ファイルで根管拡大形成をする誰しもに経験があると思いますが、今回は根管のつまりについてです。なぜ詰まるのか、詰まらせないためにはどうすればよいか、詰まった場合はどう足掻くかについて、私が知り得ている乏しい知見ですが、記事にしておきたいと思います。


まず、根管が詰まるのは…
1.手用ファイルを用いている
2.拡大で削片を出す
3.根尖方向に削片を移動させてしまっている

およそこんな条件が揃ったときだと思います。
エンドウェーブ等にニッケルチタンファイルでクラウンダウン拡大・形成すれば起こりません。ニッケルチタンファイルをステップバックで用いて拡大・形成しても起こりません(起こるかもしれないが、聞いたことがない気がする。ニッケルチタンファイルはクラウンダウン法で用いるのが普通だからかも)。

詰まった場合、EMR(私の場合はRootZX)の反応が、0.5付近で不安定になり、ファイルの穿通ができなくなります。また、詰まりかけの状態にある場合も、メーターの動作が不安定になります。EMRの感度が下がる感じといいまょうか。経験を積むと、EMRの反応から詰まりかけにあるかどうかが体感的に判断できるようになります。

エンドの教科書に記載があった気がしますが、根尖の詰まりは、手用ファイルでステップバック法による拡大形成時に起こりうる問題なのです。

理想的には、先進エンド治療のように、ネゴシエーション後はニッケルチタンファイルで規格的に拡大と形成を仕上げる手法であると思いますが、コスト的に保険診療では無理です。「保険だからペイできないので無理」、と早々に白旗を揚げるのは癪ですが、開業医は常にコストとのせめぎ合いに苛まれているのです。良心ある歯科医師はしばしばコスト無視のボランティア歯科を行いますが、経営者的には褒められた行為ではありません。



何が、詰まるのか?
基本的には拡大時に生じる根管牙質の削片です。
ファイルは刃物ですから、根管壁に食い込ませた状態でファイルを引けば象牙質が切れます(ターンアンドプル)。食い込ませず根管壁に押し付けた状態でKファイル、Hファイルを掻き上げても、象牙質が切れます(ファイリング)。

生じた削片は、根管洗浄で除去するのが基本です。成書にも、「…拡大時には、常に根管洗浄で根管の詰まりを防止するべきである…」というような記載があったはず。ここで「交互洗浄」を習った気がします。古典的な手法ですが、交互洗浄が意味するのは、「生じた削片は溶かすのではなく、浮かび上がらせて洗い流すもの」ということです。EDTAを根管に満たした状態ならば、生じた削片が溶解しそうに思いますが、これは素人考えで、実際は溶けません。潤滑EDTAペーストであるRc-Prepも同様で、基質内に削片をまとめてくれるものの、削片の溶解は期待できません。
削片は、やはり洗浄行為で洗い流す他に除去の方法がありません。残念なことに、根管洗浄による削片除去は意外に難しく、できたつもりでも多量の取り残しがあることが多いようです。医科歯科大の小林千尋先生は、根尖部の徹底的な洗浄で臨床経過が驚くほど改善することがあると述べています。私もその通りだと思います。UATの実用化(製品化)を待ち焦がれるばかりです。

話が根管洗浄にそれてしまったので、削片の詰まりにもどりましょう。
手用ファイルを用いると詰まるのなら、どのような使い方をすれば詰まるのかを考えてみましょう。


手用ファイルを使いこなす、理解する
ターンアンドプルにしろファイリングにしろ、根管の拡大を目的に行いますが、その一方で根管壁から削片を出します。この時、ファイルを正回転(時計回り)させていると、生じた削片は歯冠側に移動します。逆回転させると、生じた削片は根尖側に移動します。だったらファイルは正回転(時計回り)だけさせていればいい、と考えますが、正回転だけでは手用ファイルは使いこなせません。食い込みすぎたファイルを緩め入る意味での逆回転だけでなく、ウォッチアンドワインディングやバランスドフォーステクニックで逆回転が必要だからです。

逆回転させればすぐに根尖が目詰まりを起こすかといえば、ストレートに近い根管(プレカーブを必要とせず穿通できるもの)であれば起こりにくいです。起きたとしても、穿通して再び根管の交通を確保するリカバリーが比較的容易です。問題なのは、プレカーブをつけないと穿通が困難な湾曲を根尖部に有する根管です。この場合、途端に詰まりやすくなり、リカバリーも難しくなるので要注意です。特に曲がった根尖部は、アピカルシート付与やファイルを根尖側に移動させるための正回転でレッジやトランスポーテーション(本来の根管の走行よりも、根管が外側に形成される)を形成しやすく、我々は常に注意をはらいます。しかし根尖にファイルを移動させたり、アピカルの拡大や形成を行うためには回転運動を強いられます。ここで馬鹿正直に正回転だけさせると、レッジやトランスポーテーションを誘発しますので、ファイルに動かし方に小細工が必要になります。それが、ウォッチアンドワインディングとバランスドフォーステクニックです。これはファイルに逆回転の動きを与える使い方です。

ウォッチアンドワインディングは、錐揉み運動や、時計のリューズを操作する動きと例えられます。具体的には回転角30-90度の範囲での正逆運動になります。この動きで、ファイルは根尖に移動します。逆回転の要素があるので、削片の一部は根尖側に移動することを念頭に置く必要があります。

バランスドフォースは、湾曲した根管の根尖にファイルを進めたい時の動かし方です。ファイルを90度程度正回転させて、ファイルを根尖方向に食い込ませた後、根尖側にファイルを軽く押すような力を加えながら270度の逆回転をさせるものです。ファイルは、逆回転時には根管の中央にあろうとする性質を利用したテクニック(だったはず)。何れにせよ、正回転だけで湾曲根管を攻めると、レッジ、トランスポーテーション、ファイル破折を招くわけですが、逆回転の動きを組あわせることで、完全でないにしろそれらを予防するのです。ただし、これらの使い方では削片が根尖方向に移動することは避けられないので、明らかに根尖が詰まりやすくなります。


では詰まらないようにすべく、なにを心がけるか?
・根尖が湾曲している根管では、なるべくファイルは回転させない(プレカーブを付与したファイルでファイリングして拡大する)
・マメにリカピチュレーションする(#10、#15)
・生じた削片を纏める意味でRc-Prepを併用する(EDTAによる無機質溶解作用で削片を溶解することは期待しない)
・こまめに根管洗浄を行う(できれば根管内吸引洗浄)
・拡大と形成はニッケルチタンファイル-クラウンダウン法で仕上げる

このような案が考察されます。
ファイルの号数を変えるタイミングでのリカピチュレーションと根管洗浄を厭わずに行うのが基本となりましょう。理想的にはニッケルチタンファイルで根管の拡大・形成を行うのでしょうが、私を含め、採用に踏み切れない先生が多いのが実情だと思います。

根管の拡大・形成は、私は手用ファイルを主に用いております。ネゴシエーション後にニッケルチタンファイルで仕上げる方法は採っておりません。ニッケルチタンは、アペックスを#25まで確保した後に、規格的なテーパーをつける目的で用いているぐらいです。その場合、ニッケルチタンファイルは厳密に作業長まで挿入することはなく、適当にアンダーな位置までです。ですが、アピカルから3mmぐらい歯冠側の根管がフレアー形成のようにテーパーが(規格的に)つくだけで、その後の手用ファイルの操作が格段に楽になります。また、根管に6度程度のテーパーがないと効果的な洗浄満足なラテラルオブチュレーショも望めません。テーパーを手用ファイルで付与するのは骨が折れるので、ニッケルチタンで手早く終わらせるわけです。

ニッケルチタンファイルには松風のMtwoファイルの#25(21mm)を用いるケースが多いです。

根管洗浄に関しては、私の治療環境では根管内吸引洗浄も超音波洗浄もできません。単純な形態の根管にしろ彎曲根管にしろ、詰まり防止のために頻繁にリカピチュレーションを行い、削片の洗浄にはRc-Prep+0.5%ヒポクロでの発泡作用に期待しています。

なお、詰まってしまった場合は落ち着いて#10か#15のファイルに小さくプレカーブをつけて小さく上下運動させると再穿通できることが多いです。再穿通したら、ファイルがオーバーした状態で細かく上下運動して意識的に根管の交通性を確保しましょう。

ファイルが根尖をオーバーして根尖周囲組織を刺激しても、ファイルに細菌が付いていなければ特に痛みは生じません。根管治療後に激しい痛みがでるのは、オーバーインストゥルメーションによる機械的な損傷よりも、感染源や細菌を根尖周囲組織に溢出させたことによる炎症であることが殆どだと思います。その意味で、根管内の感染源の徹底除去は、治療後の痛みの予防に有効だと言えます。



※)
ここでいうステップバックとは、クラウンダウンに対する拡大方法を意味しており、手用ファイルを用いた湾曲根管の拡大形成法のひとつを意味するわけではありません。

クラウンダウン:大きな号数から小さな号数
ステップバック:小さな号数から大きな号数

作業長のアペックスまで手用ファイルを到達させて拡大形成する、従来的で普遍的なファイルの操作を意味しています。スタンダードな方法です。
posted by ぎゅんた at 17:26| Comment(4) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする