2013年04月19日

RootZXで作業長を規定している、ぼくとあなたへ

root zx.jpg
勤務先のルートZXさんたち

 学生実習で習った、作業長を決定した後はルーラーでストッパーを止め、基準点を越えないようファイルを扱う…方法を行っておられる先生はいらっしゃるだろうか。学生時代のエンド実習がトラウマの私は、その方法で根治をしていません。電気的根管長測定器(以下、EMR)のクリップにファイルを固定して落下を防ぐ形で、根管に挿入するファイルは常にEMRと共にあります。作業長はメーター任せといえばそうである。「機械ばっかりみやがって、患者さんをみろ!」と叱責されたら返す言葉もないのであります。

 私の親父ぐらいのジジイ老歯科医師はEMRを使わず、手指の感覚とファイルトライで作業長を決めている先生が多いようだ。初期のEMRが使いにくく信頼性が乏しかったとか、そうした過去の印象が強いのもあるらしい。勿論、EMRを用いないエンドに精通しているのもある。

 私の親父のエンドと作業長に限って言えば、ドアンダー根充だったり穿通もへったくれもないという滅茶苦茶さで、うっかり「お父さん、なんですかこの根治は」なんて口にしたが最後、小さな歯科医院の中に親子間抗争が勃発するのは必定の状況であります。歳をとるにつれ根気もなくなってきたのか、最近はエンドは全て息子に丸投げ状態。おかげで週一回、実家の歯科医院にて働く私は殆どエンド三昧になりつつあります。狭窄根管や閉鎖根管ばかりで気が変になりそうです。


くだらなく恥ずかしく聞き苦しい愚痴はさておき、EMRについて
 エンドのときにEMRがないとダルマさんになっちゃう(注:「手も足も出ない」の意)先生は私を含めて多いのではないかと思う。最近のEMRはずいぶん性能も良くなり、道具として当然の条件:キチンと正しく使いこなせば結果を出してくれるものばかり。市場には数種類のEMRがあります。ルートZX、ジャスティ、アピット、ピオ、ビンゴ…
 それらのなかで、研修医からいまに至るも連綿と使い続けているモリタのROOT ZXについて記事にします。ROOT ZXのメーターの読み方と作業長についてです。ROOT ZX以外のやつは殆ど使ったことがありません…


ルートZXのポイント
・メーター目盛りの1.0のところを作業長にする。
・クラシカルに作業長を決める場合は、メーター目盛りの0.5の長さから0.5mm引いた長さを作業長にする。



さて、説明せねばなるまい。
RootZXの目盛りについて説明しよう。

まずはこいつをみてくれ。

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ココが本記事でいう「0.5」だと思ってもらいたい。


 私はいままで、目盛りの0.5のところを「解剖学的根尖孔から0.5mmの位置」と思っていた。根尖最狭窄部は、解剖学的根尖孔から0.5-1.0mm歯冠側にある、との知識からである。また、先輩や周囲のドクターらも0.5に合わせて根治をしている様子を目にしていたことも影響している。0.5を指すとき、ファイル先端は生理学的根尖孔にある、と信じていたのである

 とある根治のセミナーに参加したときのこと、参加者の先生方や懇親会での話のなかで作業長とEMRが俎上に載った。モリタのRootZXを0.5に合わせるのはよくない、との話題でディスカッション。聞いた話は、RootZXは結局はEMRであり、作業長を求める際の一つの道具過ぎない(=根管長を測ってそこから1.0mm引く)というのである。確かにその通りである。なぜ0.5に合わせるのが良くないかの具体的な説明は、私が聞き逃したか、理解できなかったか、無かった。作業長は手指感覚やX線やEMRから得られる情報を総合して求めるものと教科書には書かれているはずで、まあ正論だなと思った。と同時に、そのときに初めて、RootZXで0.5のところを作業長にすることに疑問を抱いたのであった。どうやら「0.5」は何かが違うらしい…

 しかし実際の自分の臨床においては、EMR0.5を作業長に求めてエンドをする、それ以外の方法から作業長を決定するのは面倒でしかなかった。過去に「EMRは必要ない、手指の感覚が最終的に最も頼りになる」と説いてくれた母校の先輩もいたが、私のdullな指先と臨床センスはそれを受け入れることはなかった。だから、作業長は相変わらず「RootZX0.5」ままであった。根管内でのファイルの位置はEMRでモニタリングし、ファイルの操作に意識を集中させる…格好良く言えば、そのスタイルに慣れていたのである。だが、心中には、常に0.5が正しいのかどうかの疑念が燻り続けていた。

 そしてようやく知見が得られた。セミナーに参加して得られた情報である。私のようにRootZXの0.5に悩む先生には役立つ情報かもしれない。

 まず、RootZXのメーターの目盛り0.5は解剖学的根尖孔から0.5mmを指すのではない。「メーターがバラツキなく最も安定する」位置を意味している。実態はファイル尖端が歯根膜に接している位置なので、ここを基準に根管拡大と形成を仕上げると根尖孔を壊しやすいし、根尖外への刺激が大きくなるだろう。
 つまり、作業長はメーターのメモリ0.5から0.5mm引いた長さにすると良いのである。それか、私のようなEMR依存手技者はメモリ1.0を作業長にするのがよい。なぜなら、メモリ1.0は、解剖学的根尖孔からおおよそ0.3〜0.4mmぐらい歯冠側の位置を指すからである。これでも根尖に寄っているぐらいだが、エンドで高名な某先生はRootZX1.0を基準にしているとのことであった。私はそれに倣うことにした。

RootZX_scale_10.jpg
※ココが本記事でいう「1.0」

 この話を伺って早速、1.0で合わせるように変えた。二度目の根治で、初回時に0.5に合わせてあった根管は1.0で仕上げるようにした。抜髄も感染根管も1.0に合わせてやるこにした。それを一ヶ月続けてみたのであるが、今のところ懸念していた不都合(残髄、術後疼痛、消えない打診痛や違和感、ドアンダー根充像 等)を感じてはいない。むしろ術後疼痛を訴えるケースが減った気さえしている。

 現時点でもし次来院時に根管内に残髄があったとすれば機械的拡大不足であり、打診痛や違和感が消失しないのは感染源を取り残しているだけである。これは0.5と1.0の違いからくる、0.3〜0.4mmの作業長の違いに影響されるものではない。そして到達させるファイルが0.5よりも0.3〜0.4mm歯冠側にあるということは、根尖孔を破壊しずらく、また、根尖孔外への刺激も少なくなるので術後疼痛は減るだろう。今の私はそう考えている。エンドの診療内容術式は今までとなんら変わりはない。ただ、RootZXで合わせる目盛りを0.5から1.0に変えただけである。

 なにかお役に立てる情報であればと願うばかりである。
 
posted by ぎゅんた at 18:41| Comment(2) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月09日

まとまりなく思うところあって

you failed.jpg

日本の歯医者は、おそらく世界で最も難しい歯を相手にして、間違いなく最も安い診療報酬を得ている。

保険診療は素晴らしい相互扶助の精神の元に成り立つ我が国が世界に誇ってよい制度だと(おそらく厚生省技官らは)思っている。
国民は、そうであって欲しいなと思っている(制度の問題には気づいている)。
我々歯科医師は既に破綻していると思っている。

しかし、保険医を脱退して自由診療医道を選択する歯科医師は殆どいない。
これは歯科医側に「腕がない」とか「面倒くさい」とかの理由ではなく、国民の意識が、医療、特に歯科医療は保険で治してくれるものと信望しているところに理由がある。患者が、必ず治るものと思い込んでいるのが歯科医療の特徴であり、誤解やトラブルの禍根となっているのは間違いない。なんで保険でやってくれないんだ、と。

治せないものは治せないし、保険診療では提供できない治療方法が在るのである。これを理解してくれる国民は少ない。理解より先に「結局は金が欲しいんだろ?これだから歯医者は(守銭奴なんだ)…」という感情的な思いが湧くのである。我々歯科医は厚労省に対して鬱積を抱きながら保険診療に従事している。声をあげて交渉しているほど暇も時間も(気力も)ない。そうした政治的な折衝は歯科医師会の仕事だからである。だからこそ、決して安くない入会費を払い、会費を払い続けるのだ。少しでも状況が改善されることを期待しながら…

メールボックスの整理をしていて、寺内先生からの返信を読み返す機会があった。
先生の著書「ビジュアライズド イラストレーションズ How to Endodontics」の感想をメールしたのである。
印象的な部分を抜粋してみよう。


「残念ながら日本での歯科医師のイメージは意図的に悪くされていいます。イタリアや韓国では医学部よりも歯学部の方が人気高く倍率も40倍くらいです。したがって歯学部は難関校なのです。診療報酬も日本の歯科では世界一安いためにワーキングプアーとされています。制度の違いだけでこのような差が生じているのです」


一方、日本では歯学部の人気は低いままです。
現在、流石に底を打って、回復傾向にあるらしいですが、医学部や(いわゆる)公務員路線への進路の人気とは比べ物になりません。仄聞ですが、進路調査で歯学部を目指す子を進路指導教諭が平然と医学部に変更させるそうです。理由には、医学部の方が社会的にネームバリューが高いから、ということもありましょうが、歯科医師の社会的地位やイメージが如実に反映されている側面もありましょう。歯科医業は、将来性ある栄えある職業にみられていないわけです。医療職でありながら、医者と違って命を預かるほどの仕事ではないと舐められていることもありますし、健康な口腔内環境をもてることが当人の人生にどれほど恩恵をもたらしてくれるのか、それらが国民に理解されていない現実があるのです。確かに歯では人が死ぬことは稀かもしませんし、よほど痛くない限りは歯科の門を叩かない人が多いでしょう。
でも、歯がなければ食事も満足にできなくなっていきますし、顔の形もすこし変わるでしょうし、発音も悪くなるかもしません。人前で笑えないことコンプレックスを抱くようになります。それでも、痛くなければよしとする人はあとを絶たない。これは私の師匠の言葉ですが、「たかが歯、されど歯、でも歯」なのです。歯をないがしろにすることは、長い人生とっては重い不利益になるということです。


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posted by ぎゅんた at 19:31| Comment(3) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする