学生実習で習った、作業長を決定した後はルーラーでストッパーを止め、基準点を越えないようファイルを扱う…方法を行っておられる先生はいらっしゃるだろうか。学生時代のエンド実習がトラウマの私は、その方法で根治をしていません。電気的根管長測定器(以下、EMR)のクリップにファイルを固定して落下を防ぐ形で、根管に挿入するファイルは常にEMRと共にあります。作業長はメーター任せといえばそうである。「機械ばっかりみやがって、患者さんをみろ!」と叱責されたら返す言葉もないのであります。
私の親父ぐらいの
私の親父のエンドと作業長に限って言えば、ドアンダー根充だったり穿通もへったくれもないという滅茶苦茶さで、うっかり「お父さん、なんですかこの根治は」なんて口にしたが最後、小さな歯科医院の中に親子間抗争が勃発するのは必定の状況であります。歳をとるにつれ根気もなくなってきたのか、最近はエンドは全て息子に丸投げ状態。おかげで週一回、実家の歯科医院にて働く私は殆どエンド三昧になりつつあります。狭窄根管や閉鎖根管ばかりで気が変になりそうです。
くだらなく恥ずかしく聞き苦しい愚痴はさておき、EMRについて
エンドのときにEMRがないとダルマさんになっちゃう(注:「手も足も出ない」の意)先生は私を含めて多いのではないかと思う。最近のEMRはずいぶん性能も良くなり、道具として当然の条件:キチンと正しく使いこなせば結果を出してくれるものばかり。市場には数種類のEMRがあります。ルートZX、ジャスティ、アピット、ピオ、ビンゴ…
それらのなかで、研修医からいまに至るも連綿と使い続けているモリタのROOT ZXについて記事にします。ROOT ZXのメーターの読み方と作業長についてです。ROOT ZX以外のやつは殆ど使ったことがありません…
ルートZXのポイント
・メーター目盛りの1.0のところを作業長にする。
・クラシカルに作業長を決める場合は、メーター目盛りの0.5の長さから0.5mm引いた長さを作業長にする。
さて、説明せねばなるまい。
RootZXの目盛りについて説明しよう。
まずはこいつをみてくれ。
ココが本記事でいう「0.5」だと思ってもらいたい。
私はいままで、目盛りの0.5のところを「解剖学的根尖孔から0.5mmの位置」と思っていた。根尖最狭窄部は、解剖学的根尖孔から0.5-1.0mm歯冠側にある、との知識からである。また、先輩や周囲のドクターらも0.5に合わせて根治をしている様子を目にしていたことも影響している。0.5を指すとき、ファイル先端は生理学的根尖孔にある、と信じていたのである
とある根治のセミナーに参加したときのこと、参加者の先生方や懇親会での話のなかで作業長とEMRが俎上に載った。モリタのRootZXを0.5に合わせるのはよくない、との話題でディスカッション。聞いた話は、RootZXは結局はEMRであり、作業長を求める際の一つの道具過ぎない(=根管長を測ってそこから1.0mm引く)というのである。確かにその通りである。なぜ0.5に合わせるのが良くないかの具体的な説明は、私が聞き逃したか、理解できなかったか、無かった。作業長は手指感覚やX線やEMRから得られる情報を総合して求めるものと教科書には書かれているはずで、まあ正論だなと思った。と同時に、そのときに初めて、RootZXで0.5のところを作業長にすることに疑問を抱いたのであった。どうやら「0.5」は何かが違うらしい…
しかし実際の自分の臨床においては、EMR0.5を作業長に求めてエンドをする、それ以外の方法から作業長を決定するのは面倒でしかなかった。過去に「EMRは必要ない、手指の感覚が最終的に最も頼りになる」と説いてくれた母校の先輩もいたが、私のdullな指先と臨床センスはそれを受け入れることはなかった。だから、作業長は相変わらず「RootZX0.5」ままであった。根管内でのファイルの位置はEMRでモニタリングし、ファイルの操作に意識を集中させる…格好良く言えば、そのスタイルに慣れていたのである。だが、心中には、常に0.5が正しいのかどうかの疑念が燻り続けていた。
そしてようやく知見が得られた。セミナーに参加して得られた情報である。私のようにRootZXの0.5に悩む先生には役立つ情報かもしれない。
まず、RootZXのメーターの目盛り0.5は解剖学的根尖孔から0.5mmを指すのではない。「メーターがバラツキなく最も安定する」位置を意味している。実態はファイル尖端が歯根膜に接している位置なので、ここを基準に根管拡大と形成を仕上げると根尖孔を壊しやすいし、根尖外への刺激が大きくなるだろう。
つまり、作業長はメーターのメモリ0.5から0.5mm引いた長さにすると良いのである。それか、私のようなEMR依存手技者はメモリ1.0を作業長にするのがよい。なぜなら、メモリ1.0は、解剖学的根尖孔からおおよそ0.3〜0.4mmぐらい歯冠側の位置を指すからである。これでも根尖に寄っているぐらいだが、エンドで高名な某先生はRootZX1.0を基準にしているとのことであった。私はそれに倣うことにした。
※ココが本記事でいう「1.0」
この話を伺って早速、1.0で合わせるように変えた。二度目の根治で、初回時に0.5に合わせてあった根管は1.0で仕上げるようにした。抜髄も感染根管も1.0に合わせてやるこにした。それを一ヶ月続けてみたのであるが、今のところ懸念していた不都合(残髄、術後疼痛、消えない打診痛や違和感、ドアンダー根充像 等)を感じてはいない。むしろ術後疼痛を訴えるケースが減った気さえしている。
現時点でもし次来院時に根管内に残髄があったとすれば機械的拡大不足であり、打診痛や違和感が消失しないのは感染源を取り残しているだけである。これは0.5と1.0の違いからくる、0.3〜0.4mmの作業長の違いに影響されるものではない。そして到達させるファイルが0.5よりも0.3〜0.4mm歯冠側にあるということは、根尖孔を破壊しずらく、また、根尖孔外への刺激も少なくなるので術後疼痛は減るだろう。今の私はそう考えている。エンドの診療内容術式は今までとなんら変わりはない。ただ、RootZXで合わせる目盛りを0.5から1.0に変えただけである。
なにかお役に立てる情報であればと願うばかりである。