ここの所、それなりに満足いく根充の感覚が得られてきた。側方加圧である。
今回は、現時点で私が行っている根充について思うところや、具体的な術式についてを記載したい。
主に用いている器材
・EMR(ROOT ZX)
・Kファイル(マニー)
・Rc-Prep
・次亜塩素酸ナトリウム水溶液(0.5%に希釈している)
not uplifted in the slightest過去の記事にあるとおり根充は苦手だったのであるが(かと言って現状、得意なわけでもないのだが)、なぜ苦手であったかを考えたい。
以降、とても恥ずかしいことを記載するが、ネット上で隠し立てをすることに意味はないのでありのまま記載する。反面教師にしていただければ欣快の念にたえない。
根充は嫌いだ!苦手だ!
なぜなら
ポイントの挿入や側方加圧がシンドイ
なんとか根充を終えたものの、確認デンタルでアンダーになっている
数ヶ月でper症状を起こしてくる
真面目にやってこれかよ!
だからである。
ずいぶんと感情的だが、人間は感情に支配される動物、案外に相応かもしれぬ。歯科医は常にイライラしている人種なのである。
さて、考えてみよう1)なぜポイントの挿入や側方加圧がシンドイのか?
これは単純に根管の拡大が不足しているのである。テーパー不足なのである。手用ファイルだけで根尖部にのみ注意を払って仕上げるとこうなりやすい。なぜなら、一般的な手用ファイルのテーパーは2°だからである。アピカルに注意して壊さないように、突き出さないように、そのことにばかり注意して仕上げたら根管は、大概がテーパーが小さく窮屈なものとなる。この場合は、マスターポイントがアピカルまで到達し辛くアンダーとなりやすいだけでなく、スプレッダーの挿入すら難しい。結果、アクセサリーポイントが殆ど入らないことになる。これではシングルポイント根充である。いまでも注意しないとこうした根管にしてしまう。簡単にいえばこの場合は明らかな拡大不足であり、有機質の取り残しがある。また、根治で重要な根管洗浄も、テーパーが4°以下ではアピカルの洗浄がなされないの報告があるし、それは真実だろう。結果、例えペーパーポイントに出血も何もなく、打診痛や違和感など認められないうえで根充しても、後々に根尖病変を作ってくる根管となるのである。こんなケースは意外に多いのではないか。わたしだけかもしれないが…
2)確認デンタルでアンダー?
学生時代、「…ファイルとポイントはISO規格でサイズの統一が図られているから、例えば30の号数で仕上げた根管は30の号数のマスターポイントが一致する…」という風に聞いて、ほー、うまく考えられているものだな〜、と感心したのであったが、実習や実際の根管に触れて同じことをしようとするとできない。形だけはできたと思ったら、確認デンタルでどアンダーになったものである。
どういうこったい、らっしゃい規格されてるんじゃないの?やり方が悪いのか??俺は胃が痛くなった。
以来、ファイルとマスターポイントの号数不一致問題は、私の中で常にダークマターのようにしこりのように燻り続けていた。成書を渉猟したり根治の得意な先生に意見を聞いたり抜去歯牙で色々と試したりして、ようやく自分に向いている満足のいく方法が得られてきた。
その方法は、
手用Kファイルでアピカルを仕上げた最終ファイルの号数の、ワンサイズ下の号数のマスターポイントで根充する
というものである。
リーマーでアピカルを仕上げる方法や、ニッケルチタンでアピカルではなくテーパーで器を形成する方法も試してきたが、上記の方法が最も自分にシックリくるものであることが分かってきた。
これに加えて心がけなくてはならないのが、1)でも述べたが、根管の拡大である。十分なテーパーをつければ自動で達成されるわけではないので、Hファイル(勤務先では先端に凸のないO-ファイルをHファイルの代替にしている)で全集ファイリングをしている。作業的にシンドイので、この段階で楽をするなら、Sec1-0やジロマチックなどの機械を用いることになるだろう。ニッケルチタンファイルは、根管形成(根充前の器作り)であり根管拡大ではないので使用しない。根充するに十分な拡大が終わった後になら使用できる。その場合はニッケルチタンファイルのテーパー(多くは06°)に合わせた、規格化されたテーパードGPで根管充填することもできるがアピカル号数は一致させなくてはならない。私はニッケルチタンは破折が怖くて仕方がないので、最近はなんだかんだで使わなくなってしまった。「根充前にニッケルチタンで気持ち拡大」をすることはあるが、ニッケルチタンファイルで根管壁が平滑になればいいなあぐらいの気持ちしかない。除去することも考慮した破折のリスクと保険診療点数からは、とてもニッケルチタンファイルを使っていられない気がする。
ニッケルチタンファイルを用いるなら、使い捨て前提で、拡大から形成までほぼ全てをニッケルチタンファイルで手早く仕上げる使い方をするぐらいがよいのだろうと思う。おそらく、早く楽に根充までいけるだろう。
話が脱線したが、いまの私は「根管の拡大をきっちり行うこと」を強く意識することを心がけているのである。だが、そんなことは学生時代に習っていることのはずなのだ。基本中の基本なのだ。情けないことこの上ない。タイピングしていて恥ずかしさにピクピクする。
しかし、こんなネット上で見栄を張ることはない。
拡大が常に不足していた、それで不具合が生じていたのではないのか、ならば拡大を心がければよい。
思うに、患者とファイルとEMRを与えられて根治バタケを歩み始めた私にとって、まずはファイルを根尖まで通すこと、それが始まりであった。
そして、ファイルを通したあとは根尖から突き出ないようにアピカルシートを形成する、そのことに尽力してきた。実習のように作業長を決めたあとはストッパーで長さを固定して…という手法はとらず、ファイルは常にEMRとつなげてきた。ファイルを通すこと、根管を開けること、根尖を壊さないこと…いつしか根管を拡大する念が薄れたのであろう。ファイルの動かし方にはとても重要だが、エンドの基本があるわけではない。「作業長を決めたらあとは拡大する(そうして感染源を機械的に除去する)」ことこそが基本なのだ。
アピカルがどの号数になるのか。それは術者が歯科医学的見地と感触で決めるものだが、最低#35以上にはなるのではないかと思っている。特に大臼歯遠心根や口蓋根、上顎前歯は最低#45になるのではないか。アピカルの扱いついては様々に議論のあるところだろうし、私自身、根尖部はなるべくいじりたくないと考えているが、拡大不足からくるperは御免蒙る。そんな理由から根充のポイントは目下、最低35号になっている。
アピカルの号数が決まったら、根充にうつることにしよう。
まず、術式はラテラルである。バーティカルではないのである。私はバーティカルを殆ど行ったことはない。いままで出会ってきた師や先輩や同僚、後輩に至るまで、皆ラテラルで根充していた。バーティカルは講演や成書のなかにいる、いまだ遠い存在なのである。
ところで、著名なエンドドンティストたちは例外なくバーティカルで根充している。だからと言ってラテラルが劣っている理由にはならないし、バーティカルを選択しなくてはならない理由にもならない。クラシカルながらもラテラルがいまだに現役で採用されている方法であるのは、必ず理由がある。それは、ラテラルがバーティカルと差のない満足のいく充填結果が得られるからである。そうでなければラテラルはとっくに廃れて無くなっているだろう。ラテラルの欠点は、X線的に格好いい写真なり辛いこと、スプレッダーの加圧によるマイクロクラック発生のリスク、適当にやると死腔だらけになる、などだろうか。写真写りの悪さはバーティカルに比べると明らかだが、しかし根充後に重要なのはperを予防する安定した根管が長期に渡って維持されるかどうかであり、写真写りの悪さは臨床的に問題にはならない。とは言え、写真写りが悪い根充は、概ね拡大不足とGPによる閉鎖不完全であることが多いものであるが(しかし不思議なことに、酷い根充と分かる根管なのに全くperを作っていないことも多いのである…)。
マスターポイントは、先述の通り、アピカルを仕上げた最終Kファイルのワンサイズ下の号数のものを用いる。
ここでは上顎1のケースを例にとって具体的に説明したい。
最終拡大号数が#60と想定#60のKファイルをEMR上で0.5のところまで到達させる。このファイルは抵抗があっても構わない。あまりキツキツでは困るが、ウォッチアンドワインディングやバランスドフォース法でEMR0.5までファイルが無理なく届かせられればよいのである。そして先端に牙質が着くことを確認する。
この後、ワンサイズ下のファイルに戻りアピカルシートを形成するイメージで、ファイルを回転させる。回転の方向は時計回りであるが、当然、この動きはファイルが根尖方向に進もうとするので、ファイルを歯冠側方向に引きながら回転させるのである。ファイル先端の位置はEMRで判断する。
※ファイルを回転させることによる破折が心配だと思われるだろうが、ファイルの回転時の抵抗が小さい場合は破折しない。これぐらいで破折するようなら、ファイル挿入前のチェックが不十分であるか、ファイルの抵抗が強いことを無視したかである。
※アピカルの形成は、アピカルシートの概念にとらわれて躍起になってまで作るほどのものではないが、しかし、ファイルを360°回転させてマスターポイントの先端がストップするようなシートを形成させんとする操作はおこなう。根管の先端が曲がっていれば、ファイルを回せばレッジを作るといわれるが、一回や二回ファイルを回してできるものではない(ハズ)。根管内を洗浄。勤務先では希釈した次亜塩素酸を用いている。交互洗浄はしていない(いまでは否定された方法なので)。根管内吸引洗浄が出来れば素晴らしいことなのだろうが、その器材はない。
次亜塩素酸による根管の洗浄で大切なのは、常に新鮮な溶液で十分に作用させる時間を確保することである。仄聞では、海外では40分作用させるとか。そこまで時間を確保することは本邦の保険診療では無理であるが、できる限りのことはしたい。
(このケースでは)マスターポイントの号数は55になる。EMRで0.5の所でとった作業長と、マスターポイント試適時の長さが一致していることを確認する。タグバックはないか乏しい場合が多い。しかしタグバックがあってもドアンダーになってはいけない。マスターポイントがアピカルにジャストに到達して、オーバーしなければよいのである。ファイルの操作次第で、長さピッタリタグバック有りのアピカルには仕上げられるハズだが、それは理想であって、常に目指せる領域とは思えない。しかし到達を諦める領域でもない。
ポイントの試適が終わったらいよいよ根充である。
長さは確認できているのだから、このステップで大切なのは確実な防湿と洗浄と根管の乾燥の三つである。どれも疎かには出来ないが、防湿が不完全なら洗浄も根管乾燥も台無しにされてしまうから、やはり防湿が重要である。
根充操作の難しくなる大臼歯ではラバーダムの使用をオススメしたい。ラバーダムなんて使ってられるか、でも防湿はしたい…とお考えの先生には
Zoo(mini)という開口器兼防湿器具を紹介したい。最近でいう
イソライトプラスの簡易版だと思えばよい。ただし、下顎第二大臼歯部では器具が指に引っかかって操作がしにくいので、個人的には小児と第一大臼歯までの使用にとどまっている(使い方のコツをご存知の先生は是非、ご教示下さい!)。
防湿をしたら、次は根管の洗浄である。
洗浄は基本、しすぎてもしすぎることはない。様々な方法があるが、根管内吸引洗浄が最もよい方法ではないだろうか。根管内の汚れ(拡大時生じるdebris)はマイクロで確認するとわかるが、少しの洗浄操作ではあまり除去できていない。エンドチップによる超音波洗浄でも除去できるが、時間がかかるようだ。debrisだけでなく拡大時に生じたスメア層も除去しておきたい。勿論、有機質も。
確実性と効率を考えると、EDTA溶液(スメアクリーン等)を満たした根管内を非注水エンドチップで超音波振動をかけ、その後に次亜塩素酸ナトリウム溶液で洗浄することになる。現在はこの方法が主流のようだ。そして、より高次の洗浄を求める時は根管内吸引洗浄が使用されるのだろう。
私の勤務先には根管内吸引洗浄を行える器具もないし、スメアクリーンもない。エンドチップをつけての超音波洗浄も行えない(根管内異物除去用の細長いチップならある)。スメア層とdebris、有機質の除去洗浄をどうしているかというと、Rc-Prepと次亜塩素酸ナトリウム溶液で行っている。過去のRc-Prepも記事にもあるとおり、Rc-PrepはEDTAを含む根管内潤滑材であると同時に、次亜塩素酸ナトリウム溶液と触れると発泡作用を生じる特徴がある。この時、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が高いほど発泡作用が著しい。根管拡大に伴う削片はRc-Prepの基質内に閉じ込められ、次亜塩素酸ナトリウムとの発泡作用により根管外に吐き出されてくるのである(抜去歯牙で実験してみるとよい。溢れ出てきた泡をダッペングラスに集めてみよう)。Rc-Prepと次亜塩素酸ナトリウム溶液の洗浄は拡大形成時に常に行っているので、この方法で酷く洗浄が不足することはないと思っている。そして、防湿後の根管洗浄は、試適したマスターポイントと次亜塩素酸ナトリウム溶液で行う。これは、根管内に次亜塩素酸ナトリウム溶液を満たし、マスターポイントを挿入して上下運動させるものである。これでアピカル付近まで次亜塩素酸ナトリウム溶液を届かせる算段である。地味ながら有効な方法。この方法は小林千尋先生の
新 楽しくわかるクリニカルエンドドントロジーに記載があったものである(本来は45分かけるらしいが、流石にそれは無理だ…)。
この後に、滅菌ペーパーポイントをこれでもかというぐらい用いて、ペーパーポイント先端に濡れ跡がなくなるまで乾燥させたことを確認する。シーラーは長期的には吸収と縮小により死腔を発生させるので正しく使うしかない。油性であるシーラーは乾燥させた根管で硬化・固定させなくてはならないから、乾燥が重要である。ブローチ綿栓で乾燥させるよりも手早く楽で衛生的である。根管内バキューム乾燥が出来るならもっと手早くすませられるだろう。
次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸漬しておいたマスターポイントを拭き、シーラー(キャナルスN)をタップリとつける(エビフライの為の衣のように)。それを根管内に、ユックリと上下させながらアピカルまで到達させる。こうしないとシーラーの塗布が不十分になる恐れがある。少なからずシーラー溢出による痛みがあるので、ポイントを挿入する際には「少しチクッとするかもしれません」などの声かけを忘れずに。スプレッダーをアピカルの手前まで挿入して側方加圧を行う。この時点でスプレッダーがあまり挿入されなければ根管の拡大不足が疑われる。スプレッダーが挿入されること自体が側方加圧なので、額面通りに側方に圧をかける必要はない。そんなことをするとマイクロクラックを生じるリスクが跳ね上がりる。アクセサリーポイントを順次充填していく。それなりの本数を要するので、剣山のようになるかもしれない。ガッターカットを用いて根管口直下で切断する。その後にプラガーで加圧するが、ポンポン叩くのではなく、グッ…と根管尖方向に加圧させる。これでオーバーになることはない(この時点でコアの印象が採れるのが理想的である。コアプレ時にGPは更に除去される運命にあるが、GP除去の機械的操作そのものが根充の封鎖を少なからず破壊していると考えられるからである)。
これで、確認のX線写真上ではアンダー所見(根尖ギリギリまでポイントがあるのではなく、拡大した所全てをGPが埋めているということ。つまり、マスターポイントの先端に拡大した空間が認められない)のない像が得られるはずである。
歯科治療は、煩雑なステップを着実こなすことの積み重ねで仕上がる。根管治療もしかりである。
診査・診断から根管充填、歯冠修復までへの全てに手を抜ける所などありやしない。狭くて不潔な口の中でこうも緻密な作業を行うなど正気の沙汰とは思えないが、それでも我々はやらなくてはならない。この心を支えるのは根気と職業倫理とプライドであり、挫くのは保険点数である。
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