2013年03月27日

Mtwoファイルの使用について

shofu_mtwo file.jpg

まとめ:Mtwoファイルを等速コントラで使ってはいけません



過去の記事に、松風のMtwoファイルは導入が優しいニッケルチタンファイル云々…と紹介した。
紹介しておいた身分のくせに、実際はあまり使っていなかったのである。このド外道め!


その理由は

1)手用ファイルと同じくステップバックで使うファイルであること
右向き三角1破折が怖くて根尖まで到達させられない
右向き三角2ニッケルチタンは太いファイルから使用しないと、根管壁に喰い込んで破折する

2)ファイルの挿入深さは作業長
右向き三角1基準点とラバーストッパーを信用して使用しなくてはならない
右向き三角2イマイチ信用できない

というものである。
根管にテーパーをつける意味で使用することはあっても、根管形成はしていないのである。また、ファイルの挿入深さが測定した作業長:基準点&ラバーストッパーというのは不安すぎる。ファイルを常にEMRのクリップにつけて根管に挿入して育った(?)私には、どうにもアナログな「作業長」は信頼しきれないでいるのであった。

そんなおり、エンドウェーブとデンタポートに触れる機会があった。
RootZXに接続しながらニッケルチタンを根管内で操作できるのは、想像以上にありがたいものと知った。そして、オートトルクコントロールとオートトルクリバースが、ファイルの喰い込みを未然に防いでくれる頼れる機能であることも知った。こうなると等速コントラでニッケルチタンファイルを使うのは恐怖と狂気の沙汰に思えるのである。それは言い過ぎだとしても、しかし「(等速コントラでも)使えなくはないわな…」レベルであるのはいうまでもない。注水出来るのは利点かもしれないが、各ニッケルチタンファイルはRc-Prepなりリムエードなりグライドなりの根管潤滑剤を併用する仕様なので結局非注水で用いるのである。

等速コントラがだめならMtwoファイルはなにで使うねん!と関西弁思考になった俺は松風に質問をぶつけてみた。だいたい、パンフレットに目を通しても、少なくともオツムの残念な俺には、普通にコントラにつけて使用できるニッケルチタンファイルにしか思えなかったぞ。
このように、すぐに被害者ぶったり責任転換するのは小物だからである。


疑問1)ユニットの等速コントラでは使用しないということ?

Mtwoファイルをご使用いただくにあたり、接続させるものは
トルクと回転速度を制御できるコントラヘッド等の歯科用根管拡大装置となります。
トルクと回転速度両方を制御できないコントラヘッドは
事故を引き起こしやすくなるためご使用いただけません。


疑問2)トルクコントロールの出来るコントラのひとつにモリタのデンタポートがあります。そうしたことを想定して設計しているのでしょうか?

Mtwoファイルは具体的にモリタのデンタポートを想定した設計としてはおりません。
デンタポートの仕様は分かりかねますが、指定の回転速度(250〜300[min-1])及び
トルク値(約1.2〜2.3[N・cm])に設定できる仕様の装置でしたらご使用いただけます。



ふうむ。
「トルクと回転速度を制御できるコントラヘッド等の歯科用根管拡大装置」というのは、指定は無いが、デンタポートでもよかろうし、おそらくはナカニシのエンドメイトでもよいのだろうし、その他色々…要はトルクと回転速度を設定できるものであれば良いようです。大体のニッケルチタンファイル製品はそうですよね。Mtwoファイルもその例に漏れないわけであります。
しかし、松風自身がそのような装置を併売せず、どことなく言葉を濁しているような姿勢はなぜなのか。開発費がファイルの分しかなかったのか?手前勝手な予想ですが、「ニッケルチタンが市場に出て話題になった時代に、躍起になって購入したが、その後は使用しなくなり埃を被ってしまっている”トルクと回転速度を制御できるコントラヘッド等の歯科用根管拡大装置”をお持ちの先生」をターゲットにしたのではないでしょうか。
どうなんでしょうね。あまり邪推するとぶっ殺されるかもしれませんからやめておきましょう。

ひとまずMtwoファイルはコントラではなく(勤務先の)デンタポートで作業長を確認しながら徐々に使っていこうと思ってます。ステンレススチールファイルで根管拡大をした後の根管形成(側方加圧のためのテーパー付与)に役立ってくれることでしょう。


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posted by ぎゅんた at 19:17| Comment(6) | ニッケルチタンファイル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月26日

抜髄 〜 ラバーダムはどのタイミングで?

isolate.jpg

ラバーダムをしないエンドドンティストはいないだろうし、ラバーダムの掛けられない歯はエンド治療の対象外かもしれない。ラバーダムは本邦の保険点数(わずか10点だったが)が外されて久しく、いまや各歯科医師の裁量で使用されているテクニックになっている。実態としては、殆ど使用されていないはずである。これは、ラバーダムが治療の臨床的成功に必須でないからに他ならない。誰も口にしないが、ラバーダムをしなくても問題なくエンド処置ができている気がするし、ラバーダムをしたところで明らかに治療成績がよくなることを体験として理解できていない、そもそもめんどくせー、患者が痛がる、嫌がる…このような認識なのである。ここには、私自身も含む。

ラバーダムは、無菌的に作業をするための施術というよりは、再感染を防ぐための施術という認識でいる。した方が良いのだろうと確信しているが、さすがに全ての臨床で用いているテクニックではない(上顎前歯部など)が、必要と判断したならば厭わずにラバーダムをかけることにしている。

ラバーダムをすることで再感染を防止でき、良好な治療成績につながることを体感したい。こうした思いから、最近のエンドでは採算と手間のことはひとまず無視してラバーダムをかけることを心がけている。セミナーで澤田則宏先生に「今後はラバーダムをかけて治療に当たっていきます」と約束したからでもある。まだ心の奥底に「割に合わない、時間的に面倒だ」の思いが払拭し切れていないでいる。ラバーダムが良好な治療成績につながることが体験として理解出来れば、もうラバーをかけることに躊躇しなくなり、当たり前の行為となるだろう。私はその域に到達したいのである。

ところで、ラバーかけるタイミングだが、抜髄では根管口明示の後(ネゴシエーション前)にかけるとよいと思う。
というのも、つい先日、左下6を伝麻後にインレー除去から根管へアクセス使用としたとき、舌が動いて危なかった(伝麻で舌を麻痺させてしまっていたのもあると思う)ので、切傷予防を兼ねて麻酔後のタイミングでラバーダムをかけたのである。シートの色は半透明で隣接歯や歯軸の様相は分からない。すると、天蓋除去から根管口明示がひどく難しいもになってしまった。こんなんに難しくなるとはおもいもよらなかった。幸い穿孔することはなかったが、切削の必要ない部分を明らかに触ってしまったのである。元々の不器用さと空間認識能力のなさが原因でしかないとは思うが、ラバーダムを装着するタイミングには気をつけねばならないと痛感した一例である。


余談だが、ラバーダムはアメリカの開業医バルナム(Sanford C. Barnum)が1869年に考案したテクニックである。現代に至っても、その原理も器具も、大きく形を変えていない。

Rubber Dam(Dental Dam)_wikipedia
posted by ぎゅんた at 20:42| Comment(0) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月22日

綺麗な仕事を

neatness.jpg

エンド的論旨
・根管を綺麗に仕上げられれば綺麗に根充できるはずだ
・綺麗に根充するには、根管が綺麗に拡大形成されていなくてはならない
・綺麗に仕事をすることは良い仕事をすることにつながる



科学的に説明のつく話ではないが、仕事というものは、全てにおいて綺麗に遂行すると良い結果に結びつくようになっている。良い仕事をする職人は、仕事場も作業も整然としているものだ。

良い仕事は良い結果を出すこと。目的を達成するためにスマートな方法で無駄なく丁寧な仕事を行う。それをして綺麗な仕事に結びつくのである。例外はないのである。一流を目指したい、良い仕事をしたいと思ったら、とにかく「見た目に美しく仕事をする」ことを意識するのが近道なのである。「見た目じゃねえ、結果だ」という考えもあるが、そんな考えがあっても、彼がいつしか良い仕事ができるようになっている頃、初期の頃とは見違えるように綺麗な仕事をしているようになっているものだ。最終地点が同じ場所にあるなら、最初から綺麗な仕事をするように心がけるのが良いのである。

以上の考えは、職人気質が高い仕事ほどより強く当てはまる。
特にエンドは指先勝負のアーティスティックの毛色が強いので、綺麗に仕事をする意義は高いと思われる。もとより、歯科治療のほぼ全てがそうだという認識を持った方がよいだろう。


当面の私の目標…
・全ての根管をラテラルで綺麗に根充することを目指す(拡大形成したところまでアンダーなく根充する、適切な拡大とテーパー付与なくてはならない)
・ニッケルチタンファイルで本来の根管形態を保ったまま形成する。デンタポートとエンドウェーブを用いることにする


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posted by ぎゅんた at 20:18| Comment(0) | 根治(考察) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月20日

2013/3/16.17 マイクロエンドドンティクス2日間実習コース

morita_Tokyo.jpg

土日を利用してマイクロエンドドンティクス2日間実習コースに参加してきました。土曜は院長先生に無理いって休みをもらったわけであります。本当にありがたいことです。場所は株式会社モリタ東京本社。大都会TOKYOは田舎モンには怖いトコロです…

エンドの世界では知らない人はいない澤田則宏先生のセミナーです。
内容はマイクロを用いたエンド全般について、ニッケルチタンファイル(エンドウェーブ)の取り扱い方、その他です。エンド好きの先生は参加するべきでありましょう。

このセミナーは、少人数ということもありましょうか、常に予約待ちの人気セミナー。
実際に私の申し込みは一年前に行っていたりします。一年待ってセミナーに参加するなんて初めてかもしれません。思えば、去年のほぼ同じ時期に東海林芳郎先生のエンドセミナーに参加していていました(偶然か縁があるのか場所も近くです)。私のエンドに新たなる頼もしい力が吹き込まれたのだと信じたいですし、また、それを実現していきたいものです。

セミナーで教わった知見は実際に自分の診療に応用してこそ力を発揮する(聞いて終わりではダメ。はじめの一歩を踏み出してこそ)ものでありますから、 参加してきたよ。おわり。 では意味がありません。金と時間の浪費であります。
私個人としては、参加してよかったと思っておりますし、感謝しています。


エンドの基本は、根管内の感染源の除去と再感染を防ぐことにあり、それをしてperの予防と治療を目的にしているわけで、それを達成するにはさまざまな手法と考えがあります。その中から、自分のスタイルにあった「型」を構築していくものだと思っています。
痛みが取れて歯が残せるなら、患者さんも口あけっぱのシンドイ治療も許してくれるだろう。これを可能ならしめるのが感染源の除去と再感染の防止であります。これを徹底して実現する、ただそれだけのことがどれほどに難しいことであるかは、歯科医師だけが知っている事実。細菌にまみれる口の中の、小さな歯の、見えない根管内の、見えない敵(細菌)と戦う。こんなことをやっている根管治療なるものは、キチガイ沙汰の狂気に等しい行為なのかもしれません。しかし歯を残すにはこの手法しかないのです、いまのところは…。


セミナーで得た知見
RootZXによるAPEXの合わせ方
再感染防止について
マイクロを除きながらの感染源の除去
ストレートラインアクセス
エンドウェーブによる根管形成
ラテラルコンセンデーションの更なる成熟

これらの実践が当面の目標となります。抜去歯牙との楽しいデートの始まりです。
過去に起こした記事の内容に修正が入ることも起こると思います。


Seeing is believing.《諺》
この言葉を誰でも治せる歯内療法にお2人の先生のサインつきで頂きました。家宝にクラスアップしたのであります。本当にありがとうございました。

思えばこの著書、歯医者になりたてホヤホヤのときに「誰でも治せるだって!?俺は治せねぇぞ」と思って大学の売店で予約購入したものでありました。
懐かしいようなつい昨日のことのような…
 
posted by ぎゅんた at 17:45| Comment(7) | 勉強会・セミナー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月05日

根充〜考察〜側方加圧

根治っぽい.jpg

ここの所、それなりに満足いく根充の感覚が得られてきた。側方加圧である。
今回は、現時点で私が行っている根充について思うところや、具体的な術式についてを記載したい。

主に用いている器材
・EMR(ROOT ZX)
・Kファイル(マニー)
・Rc-Prep
・次亜塩素酸ナトリウム水溶液(0.5%に希釈している)


not uplifted in the slightest
過去の記事にあるとおり根充は苦手だったのであるが(かと言って現状、得意なわけでもないのだが)、なぜ苦手であったかを考えたい。
以降、とても恥ずかしいことを記載するが、ネット上で隠し立てをすることに意味はないのでありのまま記載する。反面教師にしていただければ欣快の念にたえない。


根充は嫌いだ!苦手だ!
なぜなら

!ポイントの挿入や側方加圧がシンドイ
!なんとか根充を終えたものの、確認デンタルでアンダーになっている
!数ヶ月でper症状を起こしてくる
!真面目にやってこれかよ!

だからである。
ずいぶんと感情的だが、人間は感情に支配される動物、案外に相応かもしれぬ。歯科医は常にイライラしている人種なのである。


さて、考えてみよう
1)なぜポイントの挿入や側方加圧がシンドイのか?
これは単純に根管の拡大が不足しているのである。テーパー不足なのである。手用ファイルだけで根尖部にのみ注意を払って仕上げるとこうなりやすい。なぜなら、一般的な手用ファイルのテーパーは2°だからである。アピカルに注意して壊さないように、突き出さないように、そのことにばかり注意して仕上げたら根管は、大概がテーパーが小さく窮屈なものとなる。この場合は、マスターポイントがアピカルまで到達し辛くアンダーとなりやすいだけでなく、スプレッダーの挿入すら難しい。結果、アクセサリーポイントが殆ど入らないことになる。これではシングルポイント根充である。いまでも注意しないとこうした根管にしてしまう。簡単にいえばこの場合は明らかな拡大不足であり、有機質の取り残しがある。また、根治で重要な根管洗浄も、テーパーが4°以下ではアピカルの洗浄がなされないの報告があるし、それは真実だろう。結果、例えペーパーポイントに出血も何もなく、打診痛や違和感など認められないうえで根充しても、後々に根尖病変を作ってくる根管となるのである。こんなケースは意外に多いのではないか。わたしだけかもしれないが…

2)確認デンタルでアンダー?
学生時代、「…ファイルとポイントはISO規格でサイズの統一が図られているから、例えば30の号数で仕上げた根管は30の号数のマスターポイントが一致する…」という風に聞いて、ほー、うまく考えられているものだな〜、と感心したのであったが、実習や実際の根管に触れて同じことをしようとするとできない。形だけはできたと思ったら、確認デンタルでどアンダーになったものである。
どういうこったい、らっしゃい
規格されてるんじゃないの?やり方が悪いのか??俺は胃が痛くなった。

以来、ファイルとマスターポイントの号数不一致問題は、私の中で常にダークマターのようにしこりのように燻り続けていた。成書を渉猟したり根治の得意な先生に意見を聞いたり抜去歯牙で色々と試したりして、ようやく自分に向いている満足のいく方法が得られてきた。

その方法は、

手用Kファイルでアピカルを仕上げた最終ファイルの号数の、ワンサイズ下の号数のマスターポイントで根充する

というものである。
リーマーでアピカルを仕上げる方法や、ニッケルチタンでアピカルではなくテーパーで器を形成する方法も試してきたが、上記の方法が最も自分にシックリくるものであることが分かってきた。
これに加えて心がけなくてはならないのが、1)でも述べたが、根管の拡大である。十分なテーパーをつければ自動で達成されるわけではないので、Hファイル(勤務先では先端に凸のないO-ファイルをHファイルの代替にしている)で全集ファイリングをしている。作業的にシンドイので、この段階で楽をするなら、Sec1-0やジロマチックなどの機械を用いることになるだろう。ニッケルチタンファイルは、根管形成(根充前の器作り)であり根管拡大ではないので使用しない。根充するに十分な拡大が終わった後になら使用できる。その場合はニッケルチタンファイルのテーパー(多くは06°)に合わせた、規格化されたテーパードGPで根管充填することもできるがアピカル号数は一致させなくてはならない。私はニッケルチタンは破折が怖くて仕方がないので、最近はなんだかんだで使わなくなってしまった。「根充前にニッケルチタンで気持ち拡大」をすることはあるが、ニッケルチタンファイルで根管壁が平滑になればいいなあぐらいの気持ちしかない。除去することも考慮した破折のリスクと保険診療点数からは、とてもニッケルチタンファイルを使っていられない気がする。
ニッケルチタンファイルを用いるなら、使い捨て前提で、拡大から形成までほぼ全てをニッケルチタンファイルで手早く仕上げる使い方をするぐらいがよいのだろうと思う。おそらく、早く楽に根充までいけるだろう。

話が脱線したが、いまの私は「根管の拡大をきっちり行うこと」を強く意識することを心がけているのである。だが、そんなことは学生時代に習っていることのはずなのだ。基本中の基本なのだ。情けないことこの上ない。タイピングしていて恥ずかしさにピクピクする。
しかし、こんなネット上で見栄を張ることはない。
拡大が常に不足していた、それで不具合が生じていたのではないのか、ならば拡大を心がければよい。

思うに、患者とファイルとEMRを与えられて根治バタケを歩み始めた私にとって、まずはファイルを根尖まで通すこと、それが始まりであった。
そして、ファイルを通したあとは根尖から突き出ないようにアピカルシートを形成する、そのことに尽力してきた。実習のように作業長を決めたあとはストッパーで長さを固定して…という手法はとらず、ファイルは常にEMRとつなげてきた。ファイルを通すこと、根管を開けること、根尖を壊さないこと…いつしか根管を拡大する念が薄れたのであろう。ファイルの動かし方にはとても重要だが、エンドの基本があるわけではない。「作業長を決めたらあとは拡大する(そうして感染源を機械的に除去する)」ことこそが基本なのだ。

アピカルがどの号数になるのか。それは術者が歯科医学的見地と感触で決めるものだが、最低#35以上にはなるのではないかと思っている。特に大臼歯遠心根や口蓋根、上顎前歯は最低#45になるのではないか。アピカルの扱いついては様々に議論のあるところだろうし、私自身、根尖部はなるべくいじりたくないと考えているが、拡大不足からくるperは御免蒙る。そんな理由から根充のポイントは目下、最低35号になっている。

アピカルの号数が決まったら、根充にうつることにしよう。

まず、術式はラテラルである。バーティカルではないのである。私はバーティカルを殆ど行ったことはない。いままで出会ってきた師や先輩や同僚、後輩に至るまで、皆ラテラルで根充していた。バーティカルは講演や成書のなかにいる、いまだ遠い存在なのである。
ところで、著名なエンドドンティストたちは例外なくバーティカルで根充している。だからと言ってラテラルが劣っている理由にはならないし、バーティカルを選択しなくてはならない理由にもならない。クラシカルながらもラテラルがいまだに現役で採用されている方法であるのは、必ず理由がある。それは、ラテラルがバーティカルと差のない満足のいく充填結果が得られるからである。そうでなければラテラルはとっくに廃れて無くなっているだろう。ラテラルの欠点は、X線的に格好いい写真なり辛いこと、スプレッダーの加圧によるマイクロクラック発生のリスク、適当にやると死腔だらけになる、などだろうか。写真写りの悪さはバーティカルに比べると明らかだが、しかし根充後に重要なのはperを予防する安定した根管が長期に渡って維持されるかどうかであり、写真写りの悪さは臨床的に問題にはならない。とは言え、写真写りが悪い根充は、概ね拡大不足とGPによる閉鎖不完全であることが多いものであるが(しかし不思議なことに、酷い根充と分かる根管なのに全くperを作っていないことも多いのである…)。

マスターポイントは、先述の通り、アピカルを仕上げた最終Kファイルのワンサイズ下の号数のものを用いる。
ここでは上顎1のケースを例にとって具体的に説明したい。

最終拡大号数が#60と想定
#60のKファイルをEMR上で0.5のところまで到達させる。このファイルは抵抗があっても構わない。あまりキツキツでは困るが、ウォッチアンドワインディングやバランスドフォース法でEMR0.5までファイルが無理なく届かせられればよいのである。そして先端に牙質が着くことを確認する。
この後、ワンサイズ下のファイルに戻りアピカルシートを形成するイメージで、ファイルを回転させる。回転の方向は時計回りであるが、当然、この動きはファイルが根尖方向に進もうとするので、ファイルを歯冠側方向に引きながら回転させるのである。ファイル先端の位置はEMRで判断する。

ファイルを回転させることによる破折が心配だと思われるだろうが、ファイルの回転時の抵抗が小さい場合は破折しない。これぐらいで破折するようなら、ファイル挿入前のチェックが不十分であるか、ファイルの抵抗が強いことを無視したかである。

アピカルの形成は、アピカルシートの概念にとらわれて躍起になってまで作るほどのものではないが、しかし、ファイルを360°回転させてマスターポイントの先端がストップするようなシートを形成させんとする操作はおこなう。根管の先端が曲がっていれば、ファイルを回せばレッジを作るといわれるが、一回や二回ファイルを回してできるものではない(ハズ)。

根管内を洗浄。勤務先では希釈した次亜塩素酸を用いている。交互洗浄はしていない(いまでは否定された方法なので)。根管内吸引洗浄が出来れば素晴らしいことなのだろうが、その器材はない。
次亜塩素酸による根管の洗浄で大切なのは、常に新鮮な溶液で十分に作用させる時間を確保することである。仄聞では、海外では40分作用させるとか。そこまで時間を確保することは本邦の保険診療では無理であるが、できる限りのことはしたい。

(このケースでは)マスターポイントの号数は55になる。EMRで0.5の所でとった作業長と、マスターポイント試適時の長さが一致していることを確認する。タグバックはないか乏しい場合が多い。しかしタグバックがあってもドアンダーになってはいけない。マスターポイントがアピカルにジャストに到達して、オーバーしなければよいのである。ファイルの操作次第で、長さピッタリタグバック有りのアピカルには仕上げられるハズだが、それは理想であって、常に目指せる領域とは思えない。しかし到達を諦める領域でもない。

ポイントの試適が終わったらいよいよ根充である。
長さは確認できているのだから、このステップで大切なのは確実な防湿と洗浄と根管の乾燥の三つである。どれも疎かには出来ないが、防湿が不完全なら洗浄も根管乾燥も台無しにされてしまうから、やはり防湿が重要である。

根充操作の難しくなる大臼歯ではラバーダムの使用をオススメしたい。ラバーダムなんて使ってられるか、でも防湿はしたい…とお考えの先生にはZoo(mini)という開口器兼防湿器具を紹介したい。最近でいうイソライトプラスの簡易版だと思えばよい。ただし、下顎第二大臼歯部では器具が指に引っかかって操作がしにくいので、個人的には小児と第一大臼歯までの使用にとどまっている(使い方のコツをご存知の先生は是非、ご教示下さい!)。

防湿をしたら、次は根管の洗浄である。
洗浄は基本、しすぎてもしすぎることはない。様々な方法があるが、根管内吸引洗浄が最もよい方法ではないだろうか。根管内の汚れ(拡大時生じるdebris)はマイクロで確認するとわかるが、少しの洗浄操作ではあまり除去できていない。エンドチップによる超音波洗浄でも除去できるが、時間がかかるようだ。debrisだけでなく拡大時に生じたスメア層も除去しておきたい。勿論、有機質も。

確実性と効率を考えると、EDTA溶液(スメアクリーン等)を満たした根管内を非注水エンドチップで超音波振動をかけ、その後に次亜塩素酸ナトリウム溶液で洗浄することになる。現在はこの方法が主流のようだ。そして、より高次の洗浄を求める時は根管内吸引洗浄が使用されるのだろう。

私の勤務先には根管内吸引洗浄を行える器具もないし、スメアクリーンもない。エンドチップをつけての超音波洗浄も行えない(根管内異物除去用の細長いチップならある)。スメア層とdebris、有機質の除去洗浄をどうしているかというと、Rc-Prepと次亜塩素酸ナトリウム溶液で行っている。過去のRc-Prepも記事にもあるとおり、Rc-PrepはEDTAを含む根管内潤滑材であると同時に、次亜塩素酸ナトリウム溶液と触れると発泡作用を生じる特徴がある。この時、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が高いほど発泡作用が著しい。根管拡大に伴う削片はRc-Prepの基質内に閉じ込められ、次亜塩素酸ナトリウムとの発泡作用により根管外に吐き出されてくるのである(抜去歯牙で実験してみるとよい。溢れ出てきた泡をダッペングラスに集めてみよう)。Rc-Prepと次亜塩素酸ナトリウム溶液の洗浄は拡大形成時に常に行っているので、この方法で酷く洗浄が不足することはないと思っている。そして、防湿後の根管洗浄は、試適したマスターポイントと次亜塩素酸ナトリウム溶液で行う。これは、根管内に次亜塩素酸ナトリウム溶液を満たし、マスターポイントを挿入して上下運動させるものである。これでアピカル付近まで次亜塩素酸ナトリウム溶液を届かせる算段である。地味ながら有効な方法。この方法は小林千尋先生の新 楽しくわかるクリニカルエンドドントロジーに記載があったものである(本来は45分かけるらしいが、流石にそれは無理だ…)。
この後に、滅菌ペーパーポイントをこれでもかというぐらい用いて、ペーパーポイント先端に濡れ跡がなくなるまで乾燥させたことを確認する。シーラーは長期的には吸収と縮小により死腔を発生させるので正しく使うしかない。油性であるシーラーは乾燥させた根管で硬化・固定させなくてはならないから、乾燥が重要である。ブローチ綿栓で乾燥させるよりも手早く楽で衛生的である。根管内バキューム乾燥が出来るならもっと手早くすませられるだろう。

次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸漬しておいたマスターポイントを拭き、シーラー(キャナルスN)をタップリとつける(エビフライの為の衣のように)。それを根管内に、ユックリと上下させながらアピカルまで到達させる。こうしないとシーラーの塗布が不十分になる恐れがある。少なからずシーラー溢出による痛みがあるので、ポイントを挿入する際には「少しチクッとするかもしれません」などの声かけを忘れずに。スプレッダーをアピカルの手前まで挿入して側方加圧を行う。この時点でスプレッダーがあまり挿入されなければ根管の拡大不足が疑われる。スプレッダーが挿入されること自体が側方加圧なので、額面通りに側方に圧をかける必要はない。そんなことをするとマイクロクラックを生じるリスクが跳ね上がりる。アクセサリーポイントを順次充填していく。それなりの本数を要するので、剣山のようになるかもしれない。ガッターカットを用いて根管口直下で切断する。その後にプラガーで加圧するが、ポンポン叩くのではなく、グッ…と根管尖方向に加圧させる。これでオーバーになることはない(この時点でコアの印象が採れるのが理想的である。コアプレ時にGPは更に除去される運命にあるが、GP除去の機械的操作そのものが根充の封鎖を少なからず破壊していると考えられるからである)。

これで、確認のX線写真上ではアンダー所見(根尖ギリギリまでポイントがあるのではなく、拡大した所全てをGPが埋めているということ。つまり、マスターポイントの先端に拡大した空間が認められない)のない像が得られるはずである。


歯科治療は、煩雑なステップを着実こなすことの積み重ねで仕上がる。根管治療もしかりである。
診査・診断から根管充填、歯冠修復までへの全てに手を抜ける所などありやしない。狭くて不潔な口の中でこうも緻密な作業を行うなど正気の沙汰とは思えないが、それでも我々はやらなくてはならない。この心を支えるのは根気と職業倫理とプライドであり、挫くのは保険点数である。


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posted by ぎゅんた at 00:48| Comment(7) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする