2018年06月16日

歯根破折で困っちゃうのは人類みな平等


解決策.Jpg
え、マジで?

知人より、週刊ポストで歯科バッシングに近い記事が掲載されているとの報告があった。早速、当該記事を読んでみたところ、なるほどと思い至るところのある内容。

歯根破折に悩まされるのは患者さんだけでなく、歯科医もである。保険でファイバーポストコアが導入されたのも、従前のメタルコア・ポスト合着後につきまとっていた歯根破折のリスクを少しでも下げたいからに他ならない(補綴学会が声をあげてくれたハズ)。メタルコア・ポストがファイバーポストに置き換わった材料の変更だけで歯根破折がなくなったわけではないが、メタルコア・ポストに比べれば、歯根破折は予防できているようだ。もっとも、歯根破折に至る原因は複合的であるはずで、金属→レジンの置換は歯根破折防止のために配慮されるいくつかの要素の1つに過ぎないと考える。

さて本記事は「歯医者のタブー追求キャンペーン 第一回」とあるので、シリーズ連載されるもののようだ。古くは「歯の110番」に始まり、最近では讀賣新聞の「タービン使い回し」記事が記憶に新しい。特定の業界に対する第三者の指摘は、定期的に起こるイベントみたいな感じである。

近年は週刊現代が医科を、週刊ポストが歯科を熱心に取り扱っている印象を受ける。新聞が社会の木鐸なら、週刊誌は庶民の木鐸といったところあろうか。無論、それはタテマエであり、殊勝さのない「売れればいい(部数が伸びればいい)」ことこそがホンネである。ボランティアで雑誌を刊行するわけなどないからである。そんな中にあって、記者は商業的なバイアスと制約の中、己の信条を絡み連ねて記事を書いているのだろう。

日本の歯科業界には特殊なところがあるのであろう、昔からこうした内部に切り込んだ指摘や糾弾はなされてきた。火のないところに煙は立たずで、全てが正しい訳ではないにせよ、完全否定もできないようなところで落ち着いていくのが常である。世間は熱しやすく冷めやすい。そんな中、自戒の念を忘れずに「指摘されたこと」の改善のために行動に移す歯科医も出てくる(褒められることではないので、声に出さないだけだ)。

そういう意味では、第三者からの歯科への指摘というのは、良いことであると思うし、なくなるべきではないし、耳を傾けるべきである。偏向的で悪意に満ちたデタラメ記事でもなければ、目を通した歯科医の中から、自己反省や内省・考察により良い方向に動く者が現れるからである。

歯科に限らない話であろうが、どんな業界であれ、第三者のチェックがないと悪い方向に向かうものだ。株式会社に監査役が配置されるのも、名目上、それを懸念してのことだ。



さて本記事
普通の読者が通読すれば「歯医者は保存できる歯を安易に抜歯しすぎ。抜歯してインプラント治療に誘導しすぎ」という印象を受けるのではないかと思える。もっとも、「安易に抜歯しすぎ」に関しては、昔から言われていることである。「外科医はすぐに盲腸(虫垂)を切りたがる」と同じで、永遠に言われ続けるかもしれない。

ひとまず、抜歯以外に策がない場合は別として、まだ歯を残せる手立てがあるのであれば、それを無視することなく患者に提案する姿勢が歯科医師に望まれる、というメッセージを読み取ることができる。けだし正論であるし、歯を残すために尽力することは、歯科医師に求められる姿勢であると思う。

とはいえ、抜歯に至る原因が歯根破折である場合は例外的なのだ。

歯根破折=抜歯というのは、昔からの教科書的な不文律であり、歯科医師はそう教育を受けて育つ。歯根破折に伴う歯周組織を巻き込む急性炎症の惹起に数多く遭遇しているし、自らが手がけ治療した患歯が歯根破折によってスポイルされる経験もしているものだ。「破折、コノヤロー!」と思っていない歯科医師もまた、世界中のどこを探してもいないのである。

生活歯/失活歯を問わず、歯根に亀裂や破折が生ずると生体はどデカイ声をあげてパニックに陥り、生体より追い出そうとし始める。口腔内は最高のヘヴン・オブ・バクテリアなので、亀裂や破折に沿った炎症に細菌の修飾が加わって化膿性炎となる。こうなると歯茎は腫れるし痛くて噛めないし、患者さんは泣きっ面に蜂で歯科医院に駆け込むことになるのが常である。

こうした場面においては歯科医師、ことに開業医は「確実な結果」として除痛と解決策を提示しなくてはならない。沽券と評判に関わるからである。歯根破折に伴う苦痛の禍根は「その歯」なので、原因除去として抜歯を提案するのは自然なことである。ただ、抜歯は急性炎症時には局所麻酔が奏功しづらいことから、まず消炎後に行うことになるのが普通である。抜歯後、症状は原因除去によって消失し、欠損だけが残る。

歯根破折を前にして、抜歯に踏み切るか保存を狙うかは歯科医師の考え次第で左右される。繰り返すが、抜歯を選択するのが普通である。歯根破折をきたした歯は、基本的に炎症から休まることは考えられないからである。たとえ保存したところで慢性炎症を抱えた歯として口腔内-顎骨に存在し続けると考えられるし、そもそも歯としての機能を発揮できるものか不確かにすぎる。「しょっちゅうトラブルを起こすけれども口の中にいる」状態と「現在歯として口腔内で過不足なく機能している」のは、口の中に在ることは同じでも、意義として大きく異なる。

インプラント技術の台頭は、その黎明期は確かにミゼラブルなものであったが、弛まぬ研究の積み重ねによって、今では欠損補綴に対する余地性の高い治療法になっている。歯根破折や根尖病変によって保存が叶わない歯を抜歯した後の欠損補綴の第一選択かもしれない。たとえフィクスチャー埋入のための骨がなくとも、骨補填や人工骨を用いて応用する手法も確立され、歯周炎で歯槽骨のロスを伴う欠損部にも利用できるようにもなった。隔世の感がある。私は、このインプラントの急速な発展の軌跡の中に、歯根破折に懊悩する歯科医師がいかに多かったかを感じ取ることができるのである。

記事中には、「複数あるはずの治療の選択肢を提示しないのは、医療人として誠実とは言えない」とある。これには誤解があると思う。どんな歯科医師であれ、破折歯接着療法ついてはまず知っている。知っているけれども、信頼の置ける治療法として捉えていないので選択肢にあげていないだけである。歯科医師の大部分にとって破折歯接着療法は、例えは悪いが、がん治療の説明の際に主治医に「民間療法で治療する方法」を提示するような感覚に違いない。保険診療で対応できるならいざ知らず、自費治療で予後や結果が不安定な処置というのは、開業医であれば提示できないのが普通である。

実際のところ、破折歯接着療法も今ではインプラント治療と同じく信頼の置ける治療法として確立されているのかもしれない(推量系なのは、私自身がまだ破折歯接着療法を確実な治療のオプションとして身につけていないからである)。それでも、歯根破折があった時に、それを接着療法で治すことを提示しない歯医者の不誠実だと断定されるいわれはない。先述したように、欠損補綴には、いまやインプラントが予知性の高い方法として地位を確立しているからである。そしてまた、歯根破折で抜歯と診断した症例でインプラント補綴を成功させられる先生は、間違いなく基本手技が丁寧であり、信頼の置ける腕を有している。破折歯接着療法が自費診療で15-30万円のチャージなら、生着後の歯冠修復もまた自費診療となり5-10万の追加費用を要するだろう。インプラント治療に比べて格別に安いわけでも高いわけでもない。私自身なら、インプラント治療を選択する。自分自身の左下の奥歯に埋入されたインプラントが7年が経過したいまもストレスなく機能しているし、予知性が高いからである。


The success to preserve.
患者さんによっては、たとえトラブルを起こしやすい状態であっても、抜かずに残しておいて欲しいと願う人もいる。たとえ一本の歯にすぎなくとも、両親より授かった身体の一部であり長年を共にしてきた臓器だからである。そうした患者さんは、抜歯を回避する術を提示することに大きな意義があるし、また、破折歯接着療法は福音となるだろう。智歯の抜歯移植はなぜか人気がない。

当院にも、そういう患者さんはおられるため、意図的再植や外科的挺出などで保存を図る場面がある。案外に予後が良い。今では「次の一手」としての地位を確立しつつあるし、患歯保存のための次のオプションに臨床的歯冠長延長術も習得したいと考えているところだ。

破折歯に関しては、過去に「状態が悪いことは分かりましたが、抜歯はちょっと……延命ははかれませんか」と頼まれて色々とチャレンジしてきた(同様の先生も、多いはずだ)。

破折歯接着療法に関して稚拙な私の経験から言えそうなことがあるとすれば、破折に伴って生じた感染が重篤で歯槽骨の破壊が大きい場合は厳しいし、咬合圧が大きく加わる大臼歯絶望的なまでに厳しい。前歯部は比較的助けやすいが、やはり予後は不安定である(もっとも、私の経験症例数が少なく熟練度が低いことは無視できない)。

年齢や性別はそこまで予後を左右する因子ではない。非喫煙者であり、抜歯窩と破折部を含む歯根の感染の徹底除去と、再植後の固定をシッカリ確保して咬合圧から解放させることが重要のように思える。これは、意図的再植や外科的挺出でも同じことが言える。

総合的に述べるなら、破折歯接着療法は適応が難しいテクニックである。大臼歯に限っては、無理に接着療法に拘泥せずにインプラントを選択した方が安定した結果が約束されるだろう。


まとめ
破折歯接着療法は、その手技に熟達した先生であれば予知性が高い有効なテクニックかもしれない、としか今の私にはいえない。臼歯部での適応は、どうやるんだ?

歯根に生じた垂直性破折(VRF)に対して接着性レジンを用いた再植に関する論文を適当にWEB検索して読んでみても「前歯部に限ってなら、抜歯の前に考慮されるべき手法」みたいな、及び腰的な論調のものが数件ヒットする。海外では根管治療にせよインプラントにせよ、その治療費は(日本の治療費に比べて)高額であり、予知性の高い治療法こそが患者-術者にとって絶対とする土壌があるから、おそらくこれ以上の実践的な報告は出てこないだろう。

接着歯学、ことに象牙質へのレジン接着には日本人が大きく関わってきた経緯がある。海外の歯科医師たちの報告はさておき、日本から有効なデータと手法が発表されることで破折歯接着療法が予知性の高い手法として確立されることを祈るばかりだ。




余談
私が懸念するのは、歯根に破折があると嘯き「通常は抜歯になるが、こういう最新の治療法がある」と当該記事を患者に読ませ、偽の破折歯接着療法を行なって自費料金をチャージする小悪党の出現である。破折歯接着療法も外科的挺出も意図的再植もそうだが、歯槽骨が豊富に残っており歯根の感染が軽度であれば、たとえ抜歯後に再植しても良好に生着する。歯根に亀裂がある、と偽って抜歯して再植して固定すれば、なんら難しくないし予後も悪くない。加えてこれは自費診療であるから、その後の修復処置も自費で行える。「記事には15-30万てあるけど、ウチは10万でやるヨ(ニコニコ)」と説明したら、患者さんは喜んで承諾するのではないか。不幸にして失敗しても、それは神の思し召しということにすれば良い。

どこかの記事にも書いたが、専門家が素人を騙すことなど朝飯前のことだ。悪い心を働かせれば、小銭を素人から巻き上げることなど造作もないことなのである。だからこそ、プロフェッショナルには高い倫理観と人格が求められるのであり、高い社会的地位が約束されている。裏切りの代償は、まことに大きいのである。
 
posted by ぎゅんた at 21:04| Comment(2) | 根治(考察) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月05日

(論文紹介)The efficacy of XP-endo SHAPER (XPS) in cleaning the apical third of the root canal

(著者ら)Slavoljub Živković1, Jelena Nešković1, Milica Jovanović-Medojević1, Marijana Popović-Bajić1, Marija Živković-Sandić2
1University of Belgrade, Faculty of dental medicine, Department of Restorative Dentistry and Endodontics, Belgrade, Serbia;
2University of Belgrade, Faculty of dental medicine, Department of Orthodontics, Belgrade, Serbia



どんな論文?
XP-Endoシェイパー(XPS)用いた根管形成の有効性を評価したもので、形成時の根管洗浄には(保守的な)2%ヒポクロを用いている。XPSの有効性を根尖部の根管壁象牙質を2000倍の電子顕微鏡観察してスメア層の存在の有無と程度を統計・解析することから評価している。

単純に結論付けると、NiTiファイルで根管形成後に、XP-エンドフィニッシャー(XPF)を用いるとスメア層が除去されて少なくなり、XPSとXPFの組み合わせが最もスメア層が少なかった、としている。

平易で読みやすい印象を受けるセルビッシュ・ペーパー。



所感
スメア層の除去がXPFで達成できるとするのは、私は懐疑的である。メカニズムがはっきりしないからである。読み間違えや読み飛ばしているのかもしれないが、なぜXPFを用いてスメア層が有意に除去できるのかについての言及がない。私は、その昔スメア層も除去できるという触れ込みで上市された(はずの)『エンドアクティベーター』が、その後の研究でEDTAを併用しなくてはスメア層を除去することができない報告されたことを思い出す。

フィニッシャーのファイルはシェイパーに比べてフニャ○ンで、まるでしなるムチのように動作するから、なるほど、根管壁をペチペチ高速で叩くことで、あたかも箒が床の埃や塵芥を捲き上げるように、スメア層を根管壁より剥離しているのかもしれない。とはいうものの、如何にムチのようなファイルでも所詮はメタル・マテリアルであり、象牙質に機械的な接触をしてしまえば、やはりそれはスメア層を発生されてしまうと思うのである。この点について筆頭著者にメールで質問を飛ばしてみたが、1週間経っても返事はない。

いかなるNiTiファイルやファイル・シークエンスでの拡大形成であれ、最後の「フィニッシュ」にXPFを用いることは根尖部の清掃の面では有利に働くと言えるだろうが、スメア層の除去も行ってくれるとは考えない方が良さそうだ。

多少なりともスメア層が存在しても、根管充填後の永続的な封鎖が達成できると考えるのであればXPFで仕上げて終わって良いと思う。

いや根管洗浄は重要なステップだ、象牙質削片やdebrisも含めてスメア層は可及的に除去しておきたい、と考える先生はEDTAを用いれば良いのだろう。

ひとまず私はXPSを用いているし、EDTAやヒポクロをエンドアクティベーター併用で根管洗浄している毎日である。

いずれにせよ、XPSとXPFは多くのエンドドンティストにとって関心を引くNiTiファイルであろう。


ラベル:XP-endo
posted by ぎゅんた at 16:06| Comment(2) | ニッケルチタンファイル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月26日

XP-endo Shaper に首ったけ!


XP-endo Shaper.Jpg
どうせなら6本で売って単価を下げろや!


新しいNiTiファイルを試せば毎度のように「これは良い」と節操なく言っている気がするが、このXP-endo Shaperは本当に良いのである。

見た目はアレでとっつきにくいが、折れないし、ワッシャワッシャと根管壁をシェイピングしてくれるし、なによりGP除去能がゴイス。

欠点は値段が高いこととフィニッシャーとの外見上の区別がつきにくいことである。




いつどのタイミングでこいつを使うの?

今のところ、主に三つの使い道である。

1.従来のNiTiファイルで拡大形成した後の「仕上げ」として
2.イスムスのある根管の拡大形成
3.再根管治療時のGP除去

本来的に拡大形成後の「仕上げ」には、シェイパーではなくフィニッシャーを用いるべきなのであろうが、フィニッシャーを使ってみた感じあまり感触が良くなかった。シェイパーで最終拡大時の作業長までサッと到達させるだけも良さげな感じだ。

私は根管の仕上げを、17%EDTAと5%ヒポクロを『エンドアクティベーター』を用いて行っている(ラドル先生が言うところの「3D-disinfection」を期待している)ので、目下、フィニッシャーは要らないかな……と考えているところだ。使うべきではあるのだろうが、エンドアクティベーターを買って使い慣れてきたところでもあるので、フィニッシャーの採用はひとまず様子見なのだ。

GP除去は、まさにXPエンドシャイパーの独壇場かも知れない。
とはいえ万能選手ではないから、GPの詰まった根管にシェイパーを突っ込んでも除去はしてくれない。グライドパスが形成された後に使用することで根管内のGPをかなりの信頼性の上で除去してくれる。ネゴシエーションできていない根管でも、ゲイツバーなどで大まかにGPを除去した後に用いれば根管壁のGPを、ファイルが接触する範囲で除去しようとしてくれる。

海外では、このステップでラバーダム下でクロロホルムを併用することで徹底したGP除去を実現しているようだ。

私はクロロホルムは所有していないので、GPソルベントを用いてみたが、溶液中にGPが溶け出すように除去できることを確認した。上手に使えば、根尖からGPを溢出させることもないように思える。



その他……
推奨されない種のコメントになるが、XPエンドシェイパーは実に破折しにくい。
破折するまで使ってみようと抜去歯牙30根管以上で使用していたが全く破折してこないので、使っていて怖くなる始末である。根管内で使用する変形疲労とオートクレーブ滅菌の熱疲労があるのに、なんという頑健さであろうか。セーフティメモディスクを2枚使ってのカウント管理でも問題なく耐え抜いてくれそうだ。
 
ラベル:XP-endo
posted by ぎゅんた at 20:44| Comment(7) | ニッケルチタンファイル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月16日

根管内にEr:YAGレーザーを照射してみよう


あーうぃんあどべーる.Jpg
こんなナリでも、トヨタ・ランドクルーザーが買えるお値段です

歯科用レーザーが臨床現場に台頭してきた時、その用途や対象は、歯牙硬組織の無痛的切削と歯周処置であり、根管内への照射は特に意識されていなかったように思う。穿孔部の処置の際の一手がせいぜいだったはずである。

歯学生当時、根管治療の実習でのストレスで胃を痛くしていた私は、なにかにすがる気持ちで丸善の売店で『エンドに強くなる本(増補改訂版)』を購入した。ときを経ていま本書を紐解いてみると、エンドへの歯科用レーザーの記載は「73 レーザーの根管治療への応用」の僅か2頁しか割かれておらず、論調も「〜が期待される」と弱い。

いずれにせよ、レーザーは根管治療と疎遠な印象であったレーザ光が照射された部位にしか効果がないと考えられたことから、複雑怪奇な根管内においてそれは効果をあげにくいと思われたからであろう。



借りパクしたいけど絶対無理そうなので色々と使ってみる
この度、モリタより『アーウィン・アドベール』を拝借できることになった。エンドへの応用について担当者に訊いたところ、マイクロエクスプロージョンによる攪拌効果で極めて高い殺菌効果が期待できることが分かっているのだという。

拝借中のアーウィンアドベールには根管内を照射できる専用チップ(R135T、R200T、R300T)は付属していないものの、P400FLで代用ができると説明を受けたので実地にて確認することにした。

厳密な実験ではないので、「あー、この場合なら使ってみようか」と感じた場面で用い、使用後の根管内の変化と予後が良好であるかどうか程度で判断する極めて適当なものである。

結果
・「根管内の殺菌」の意味で、効いてる気がする。
・根尖部が大きく破壊されている根管(再根管治療の根管)が対象な気がする。
・下手に使うと根尖部を壊しそう

担当者から動画つきで受けた説明を個人的解釈の元に解釈すると「ヒポクロを満たして発泡反応もない、綺麗に消毒されたと判断される根管にチップを挿入してレーザーを照射すると、ホラ、こんな濁りが発生します(汚れの取り残しがあったんです)!」とのことであった。

「濁るのはオメー、レーザーが照射された根管壁が吹っ飛んだからじゃないの」と思うのだが。
ヒポクロを満たして、照射によって汚れが除去されたなら発泡してきそうなものだ。

それか、根管内の除去されるべき debris が根管内照射による溶液に生じたマイクロエクスプロージョンによる攪拌効果で根管壁より浮き上がって生じた濁りなのであろう。根管内より debris を除去することが根管洗浄の肝であると考えるなら、もしこれが事実なら頼もしい効果であると言える。

しかしこれは、17%EDTAを満たしてエンドアクティベーターで60秒の攪拌でも達成できそうなものだ。
目下、私が使用している『エンドアクティベーター』の場合では、消毒を期待するには irrigants にヒポクロを使わなくてはならないだけだ。

根管洗浄の観点からいえばレーザーの方がクオリティが高いと思われるが、準備やコストの面で明らかに不利である。
高級車一台を購入できる価格のアーウィンアドベールを根管洗浄のために購入するのは変態を通り越して奇人の域であろう(そんな熱い先生がいらっしゃったら自分が患者だったら通院します)。



卑近な症例その1
1_01.Jpg
「4日前から左下の奥歯が痛む」を主訴に来院された患者さん。#37(近親傾斜)

FMCを除冠し、ダウエルモアを除去(ダブルドライバーテクニック+オートセーフリムーバー)し、ガッタパーチャ除去と根管の攻略。ネゴシエーションのためにSEC1-0とマニー10Kを使用。果たして、遠心根管はあっさりネゴシエーションができたが、近心根は達成できず(閉鎖と判断)。

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根尖部が既に壊れていたのか、感染象牙質として脆くなっていたのか、いずれにせよ30号が通過してしまう状態であった。
大まかにガッタパーチャの除去を達成したと判断したタイミングで仮封後に撮影した写真。

泣く子はニッコリのXP-エンドシェーパーを用いたら根尖部のGPがモリモリ除去できた。
もうこれなしでは生きられない……なんて言ったら大げさだが、これは本当に良いNiTiファイルだ。

リカピチュレーションしたファイルの先端や根管洗浄、クイックエンド使用時にGP片が確認されなくなってきたタイミングでEr:YAGレーザーをP400FLチップで照射。どこまで挿入するのかはファジーであるが、根尖部に近づけると30号のファイルが通過するほど大きくなってしまった根尖孔といえど、レーザーによって形態が破壊されてしまうだろうからやめるべきである、と考えて控えめな挿入に留める。「本当に効いているんかコレ?」という感触だが、確かに、根管内溶液に濁りが生じてきた。

1_03.Jpg
ダウンパックの痕跡が見苦しい確認デンタル(バックフィリングをしていない)。
ウェーブワンゴールドガッタパーチャ:ラージとニシカキャナルシーラーBG。



卑近な症例その2
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別の症例。「数日前から左下の奥歯が噛むと違和感がある」が主訴。

根尖部が#40Kが素通りするほど大きく破壊されていた根管。再根管治療。

2_02.Jpg
根管口直下のガッタパーチャを大まかに除去後にネゴシエーションし、エッジグライドパスでグライドパス形成し、泣く子はニッコリのXP−エンドシェーパーで根尖部のガッタパーチャを除去している。

その後、前述の症例と同様にP400FLで根管内照射をしたところ、軽い痛みの訴えと共に根尖部からの出血が確認された。
根尖孔を破壊したのかもしれないし、根尖歯周組織へのレーザーの到達が出血をきたしたのかもしれない。

これはまずいぞ!
しかし出血は直ぐに止まった。

根尖部が大きく破壊されている根管はMTA根充の適応であると思われるし、その予定なら出血の有無は予後不安因子にはならないはずなのでEr:YAGレーザーの使用は結果オーライ的に有益だと思われる。

とはいえ、意図的に出血させる目的でEr:YAGレーザーを根尖部に向けて照射するのは怖いし、憚られる。

意図的再植で口腔外で処置をする場合ならEr:YAGレーザーの使用に躊躇する理由はないけれども、その場合は目視下であるから、Er:YAGレーザーを絶対に使用しなくてはならない道理も引っ込んでしまう。

2_03.Jpg
保険治療の希望であったので、ポイント先端をアジャストさせたウェーブワンゴールドガッタパーチャとニシカキャナルシーラーBGで根充することになった。ダウンパックの痕跡が汚らしい。根充後の予後は痛みも泣く良好に推移し、安堵している。




というわけで、もし所有しているのなら、エンドに用いられる場面は少なくなさそう。

でもまあ、Er:YAGレーザーは歯周治療が独壇場だと思います。おわり。
 
ラベル:Er:YAG Laser
posted by ぎゅんた at 23:26| Comment(2) | 根治(考察) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月23日

電動注射器にはアネジェクトU


アネジェクトU.jpg
どうせ「古いスーファミ」みたいに黄ばんでいくんだから、白でなくマットブラックな外観にした方が麻酔注射器らしくない格好いい見た目になっていただろうに、と思ふ


握力のない私は、付着歯肉に局所麻酔液を注入する際に息が上がるほどの疲労を覚えたりします。浸潤麻酔(以下、浸麻)の際の局所麻酔液は、抵抗がなくて麻酔液の注入が容易な部位に注射しても、肝心の麻酔効果は「散って」しまって、結局は奏功不良になってしまうもの。注入時に抵抗がガッツリある場合は、浸麻液がゆっくりと強固な組織内に浸透することで適度適切な局所麻酔効果が発現するものです。これは下顎大臼歯部でことにわかりやすい。浸麻は、術者が楽をすると肝心なところで効いてくれないのであります。

とはいえ、付着歯肉への注射にせよ歯根膜の注射にせよ、術者はプランジャーに圧を加え続けることになります。逞しい先生はまだしも、私のような貧弱インドア豚にはこれがシンドイ。一人二人ならまだしも、しばしば臨床で起こりうる「続くときは続く」現象によって浸麻が連続する場面ともなれば、疲労がこたえて涙目。

そんなわけで、麻酔用の電動注射器は以前から関心があるアイテムでした。

この度ようやく『アネジェクトU(日本歯科薬品)』を購入したので、今回はそれに関する浸麻の記事を書いてみようと思い立った次第。



浸麻と私
思い起こせば研修医やペーペー駆け出し歯医者の頃、カートリエースやオーラスターが診療室には備わっていたが「お前にはまだ早い」と上級医に諭され、私はもっぱら 手用注射器を使っていたものであった。

これは「悪いなのび太。この注射器は」理論ではなく、まず手用注射器で及第点の浸麻ができるようになることが先決であり、そこから効かせるための考察を行い、無用な痛みを与えることのない、患者の安全のための浸潤麻酔を体得することを促していたのである。

私の母校の歯科麻酔科は、いまは分からないが当時はかなりのスパルタ教室であった。当院実習で歯科麻酔科のローテになる週を皆、戦々恐々としていた。私も例外ではない。胃を痛くした。しんと静まり返った大教室でアドレナリンとエピネフリンの違いやα作用β作用について口頭試問を受け、答えを間違って大声で罵倒されたりもした。ローテの期間、我々は歯科麻酔科にコッテリと絞られる続けた。歯科麻酔科は、患者さんの安全に直結してくる最前線の臨床分野であったから、厳しいのは当然のことなのであった。少なくとも私は、どれほど臨床経験を積み重ねていこうとも、歯科麻酔に関しては生涯、徒や疎かにできない気持ちがあり続けると思う。これは母校の歯科麻酔科の薫陶の賜物と言って良いだろう。

そんなわけで、歯科麻酔に関しては、いつも特別な思いがある。ことに「痛くない局所麻酔」を施すことで歯科治療を安全・安心に遂行することは、市井の開業医に求められた大いなる課題である。



痛くない麻酔の実現のために電動注射器?
電動注射器が、痛くない局所麻酔に直結することはないと私は思う。電動注射器が麻酔時の痛みの減少に有効なのは、低速度での麻酔液注入しか期待できず、注射針の刺入時の痛みは変わらない。浸麻における最大の懸念は、やはり注射針刺入時の痛みの存在だからである。

されども「よく効く麻酔」のためには有効な器具であると思う。一定の速度で麻酔液の漏れを防ぎつつ組織内に麻酔液を注入しやすく、また、術者の疲労軽減によって「このぐらいで、もう、いいだろう…」的注入量不足を回避できるからだ。注射後に痛みを感じにくい麻酔(「よく効く麻酔」)のためには、確実に貢献してくれる器具ではないだろうか。

注射針刺入時の痛みを可及的に小さくするにはどうしたら良いか?は成書に様々に記載がある。
基本的には、表面麻酔を併用してよく切れる細い針を用いることだと思うし、その通りだと思う。

以下に、現時点の私が行なっている方法と知りうる考えを述べておきたい。

1.表面麻酔
シール型のものを切って使用(『ペンレステープ18mg』および『リドカインテープ18mg』)。

貼る部分は、当然、最初の刺入点になるが、ターゲットは齦境移行部である。最も重要なのは、貼る前に粘膜をエアでキンキンに乾燥させて間髪入れずに貼りつけることである。

貼り付けたら、その上にロールワッテを載せて固定するようにして、できれば1分待つ。待てば待つほど良い結果が得られるハズだが、流れてくる唾液や口腔内の湿気で濡れてしまうので限度がある。せっかちな先生なら30秒でも良いだろう。粘膜の乾燥が得られた状態でズレずに貼られ続けていたなら、たとえ30秒でも表面麻酔効果が得られている。


2.よく切れる細い針
細い方が刺入時の痛みは小さい、ということで33Gのものを使用。
「よく切れる」はメーカーの技術力を信じるしかない。当たり前だがディスポである。


3.注射針刺入時の具体的な手法
ロールワッテを指で外側に押しながら、表面麻酔のテープをピンセットで引きぬき、テープが貼られていた箇所をエアで乾燥させる。この状態のとき、齦境移行部はロールワッテを指で押していることから粘膜が伸展してテンションがかかっているはずだ。そのまま、ロールワッテを遠心方向にずらすように押し、注射針をそっと粘膜の上に乗せ(まだ刺入していない)、ロールワッテ加えていた圧を解放することで、粘膜が本来の位置に戻るように移動させると同時に、その動きによって針が粘膜に刺入されるようにする。こうすると痛みが少ないようである。

そのまま針が抜けないように粘膜下に局所麻酔液注入していく。カエルの腹様に膨らむはずだが、まずそれでよいのである。0.2mlほど注入したらうがいのために起こす。しばらく休んでもらい、バイタルの確認を行う。

そのうち、刺入部周囲に「広く浅く」浸麻が奏功し始めるので、次の「本命の注射」の刺入の際の痛みをブロックできるようになる。付着歯肉への刺〜傍骨膜注射になるが、いまこそ電動注射器の出番である。



電動注射器の選定
アネジェクトU以外にも、オーラスター、ワンド、カートリエースなど様々に存在するが、私は刺入時の針先のコントローラブルをペングリップに求める向きがあり、総合的に判断してアネジェクトUが最も手に馴染んだ。気の抜けた電子音楽が流れるあたりも悪くない(不要ならOFFにできる)。

最初の刺入時の局所麻酔液の注入時にはHigh(H)を、それ以降の「本命」の場面では「Medium(M)」の速度を選択している。

アネジェクトUは良い電動注射器だと思うので、興味のある先生はデモ機を借りて使い勝手を確かめると良いだろう。



その他
・刺入部位となる粘膜面は必ず清拭しておくこと
・針が細いほど、術後の刺入点の化膿や壊死が生じやすくなる気がする
・なんだかんだで、刺入時の針先が最もコントローラブルなのは手用注射器です
 
posted by ぎゅんた at 23:21| Comment(1) | 局所麻酔 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする