2025年02月23日
【レビュー】X-スマートProプラス
色々あってデモ機を貸してもらえることになった。
このデンツプライのXスマートProプラス、かつて私が使用していたエンドモーターのXスマートの
後継機である。
使用していた、と過去形の記述であることには理由がある。
往時私はXスマートを耽溺していたのだが、ある日、前触れもなくいきなり動作しなくなったのだ。
すわ顔面蒼白で修理に出したら「こんなの直す意味ないんで買い直せ」との返答。頭にきた私は
「2度とデンツプライ製品なぞ買わん!(でもウェーブワンゴールドは買ってる)」と袂を分かった経
緯があるからである。ほとんど記憶から消えかかっていたというのに、思い出して不快な気持ち
になってしまった。ちくしょう。
少なくとも、以後、デンツプライ製の歯科材料から足が大きく遠ざかったのは事実だ。
さて本記事はXスマートProプラスの、デモ機を使ってみて得られた簡易なレビューである。既に本機を所有だったり愛用されている先生もおられると思うので心苦しいのだが、私の評価は良くない。いや、最悪である。取り回しが悪くて手になじまないのだ。相性が極めて悪く感じるのだ。こんなプロダクツでマジで売るつもりなのか?私は慄然とした。
This tool doesn’t feel right in my hand!
まず、本機はEMR機能を備えたエンドモーターである。
EMR機能は、同様に患者さんの頬に金属クリップを引っ掛け、ファイルクリップに手用ファイルを把持するという馴染みのあるもの。
エンドモーターは、ロータリー運動とレシプロケーションを備え、プリセットおよびカスタマイズ機能を有している。
エンドモード、EMRモード、モニタリングモードをタッチスクリーンで選んで使う(使い分ける)。
ユニークなのが、NiTiファイルをEMRと連動させて使えることであろう。
大昔に本ブログで記事にした記憶があるが、私はNiTIファイルをラバーストッパーで使うのが嫌だったので、FEEDで取り扱いの『エンドミニ』という延長クリップをNiTiとEMR側のファイルクリップに接続してモニタリングしながら根管拡大形成していた。これの弱点は、操作の手間が増えることと、エンドミニが長期間の使用で壊れるので消耗品としてのコストがかかることである。さはさりながら、NiTiファイルをリアルタイムでモニタリングしながら拡大形成できることが快適すぎて手間はさして気にならなかった。そしていまだにこの手法でNiTiファイルを使用し続けている。
XスマートProプラスに食指が動いたのは、現在使用しているモリタの初期RootZXがオシャカになった際の後継機を用意しておく必要があることと、エンドミニを介さずともNiTIファイルを使えるならそれに越したことはないと判断したからであった。今どきの機種なのだから、期待を裏切るクオリティではないはずだと思っていたのだが……。
まずはEMR機能であるが、RootZXと同じ作業をしているはずなのに感覚が一致しない。アペックスの位置は正確に示すが、それは「ファイル先端が歯根膜に触れた」というメカニズム的に最も感度が高いところであるから当然の話で、それよりも手前の位置の正確さが術者の感覚として違和感なく測れるものであってほしい。どうもこの辺が自分の感覚にマッチしてこない。私はRootZXで重要なのは「0.5」の値点ではなく「1.0」の値点だと考えて使用しているのであるが、XスマートProプラスの「1.0」の位置判断はイマイチ信用できないというか自信をもって採用できずにいた。これは困ったことだ。まさかラバーストッパーにもどれというのか。
次に不満なのはコントラアングル/ハンドピースがデカくて重く取り回しがわるいことである。コードレスではないから本体からコードが伸びているわけであるが、このコードが妙に堅くてねじれ癖があるものだからハンドピースにテンションが掛かってきて更に取り回しが悪化する持病つきときている。こんな重くてデカいハンドピース本体を置く台があるが、わけがわからないほど使いにくい。台に設置しようとすると転がり落ちてしまうのだ。壊れるのを誘発してどうする。
残念ながら不満はまだあって、NiTIを動かすためのスイッチとしてのボタンがあるわけだが、これが見た目的には立派なくせに指先でONにしにくいのだ。動作させたいタイミングで自在にONにできないもどかしさは只のストレスである。LEDライトがついているのは今風でイケているが、そもコントラヘッド自体が大きいので本末転倒感。私なんかはライトはいらんから小さくなってくれんかと思う。術野を照らしてもコントラヘッドで視野は防がれている。
ああ、まだあった。リップクリップとファイルクリップのコードをまとめた?ような機構になっているのだが、この部分が重すぎてリップクリップとファイルクリップが床に向けて落下していくリスクに晒されるのだ。こんなところまで術者にストレスを与えてくれる無神経な設計に笑うしかない。床に向けて落下すれば、当然リップクリップは患者の口角に不快なテンションをかけるし、ファイルクリップは引きづられて宙を舞うのである。頭おかしくなる。
まだあったわ。
EMR機能とエンドモーター機能が合体するのだから仕方のないこととはいえ、本体自体が大きく
重くなっている。RootZXなどはユニットのサイドテーブルの奥のすみっコに可愛らしく鎮座してくれるのだが、こいつはそうはいかない。設置できないことはないのだが、サイドテーブルという不安定な船の上には重すぎるのだ。下手すりゃ転落一発アウト、「こんなの直す意味ないんで買い直せ」コース直行である。恐ろしくて設置することができない。
もうこれだけで使う気も萎えるが、設置場所をチェアサイドの固定テーブルなりエンド治療用の器具などを揃えたカート等に求めることになるだろう。私はデモ機をカートに設置して使った。その大きさのために設置に苦慮した。なんでこうなるのか。
そんなわけであるから、試用して得られた私のXスマートProプラスに対する評価は極めて低いのである。先生方にオススメもしにくい。同じ目に遭って欲しいからデモ機を借りてくださいと言いたいけど、言えない。
この機器は海外のエンドドンティストのような、優雅でモダンで開放的なオフィスに設置されて使われることを想定して作られたのではあるまいか。いわゆる外人規格というか、私のようなチンケなGP保険医の診療室で使用されることなんて想定もされていない、そんな感触であった。
2024年12月10日
なにはともあれフロッシング
誰の発言なのかアメリカの歯周病学会?かどうかも忘れたが、”floss or die” なる文言が存在する。
フロッシングの重要さを説く訓示のようである。たしかに、歯間にフロスを通すとブラッシングで取り残した歯垢が存外に取れてきたりするから、取り残したままでいると死が近づいてきそうな気にはなる。隣接面う蝕も多発しそうである。
私は、歯学生になる前もなってからもフロッシングを習慣づけていたことはない。今も、フロッシングは真面目ではない。しかし、隣接面う蝕は生じたことがない。歯間乳頭歯肉の局所的な歯肉炎は生じるが(P急発経験)、アタッチメントロスを生じる歯周炎に移行してもいない。
結論:フロッシングは不要!
な、ワケはない。それは極論というものじゃ。
フロッシングはフロッシングで、口腔内のプラークバイオフィルムという、あのまことに厄介なバクテリアコロニーを物理的に除去するのであるから、口腔内の衛生的な環境を鑑みれば実に有益な行為である。
フロッシングの習慣は特にないが隣接面う蝕も歯周炎も生じていない、というのは、元来の運の良さも加わって安定した口腔内環境が成立しているにすぎないのだと思う。この辺は、どうにも個人差がある。ひょっとしたら、ブラッシングが極めて上手ならフロッシングを無視できるのだろうか。実のところ、私自身は己のブラッシングが上手だとは思っていない。でも、大丈夫なままだ。面倒なので「個人差がある」ということにしておこう。
なにはともあれフロッシング
とはいえフロッシングは無益なものではないのだから、ブラッシングの折に適切に行えば良い処置であることには疑いようがない。ただし、不用意乱雑に行えば歯間乳頭歯肉にデンタルフロスのダイレクト・アタックを決めて出血きたすから、フロスは歯面に沿わせて移動させるよう、慎重に操作したい。え、面倒くさい?実は俺もそう思うんだよね。ブラッシングと毒だしうがいで良くない?
私は思う。歯科医師の使命は国民の健康に寄与することであるので、テメエのことは二の次で患者さんに適切なフロッシングを提供すれば良いのである。診療中のわずかな隙間時間があれば、患者さんにフロッシングを施す歯科医師であれば良いのである。私は昔からこれを意識的ルーチンにしていて、余裕がある限り、全額全歯にフロスを通してからその日の処置に取り掛かることにしている。1分ほどで済む内容だが、このことが患者/術者にとって程よいウォーミングアップになる。風フロッシングは、それだけでも口腔内がスッキリする感じが得られるので、患者ウケも決して悪くない。術者は少なからず清掃を達成した口腔内で処置を開始できる。良いことずくめではなかろうか。
そもそもフロッシングは、最愛の彼女はおろか女房だってやってくれない(いないよな…?)。耳掃除ぐらいはしてもらうことはあろうとも、フロッシングもしてもらってるなんて、聞いたことがない。お相手さんが歯科衛生士さんなら話は別かもしれないが、その場合は「やり方を教えるから自分でやってね♡」と言われているに違いない。
話が変な方向に向かったが、要するに第三者にフロッシングをしてもらうと言うのは存外に貴重な体験なのだ。歯科医院に足を向けない限り、第三者にされる機会などないのではないか。
歯科医療従事者にとってフロッシングなど、さしたる行為にあたらないとは思う。さりとて、患者さんにとっては非日常的なサービスにあたる位置付けのものでもある。
フロッシングは、ちょっとした時間があればできる。派手ではない。地味な処置だ。でも、患者さんには有益な一手である。医療従事者の手洗いと一緒で、迷ったらやればいい。
そのうち、フロッシング操作に習熟して迅速正確にできる腕が身につく。
その一方、フロスがほつれたり通過しなかったりスッカスカで食片圧入をきたす部位が見えてきて対処を見出していけるようにもなる。
2024年11月21日
【書籍紹介】CariesBook カリエスブック
いつのまにか保険診療の指針に「歯科口腔疾患の重症化予防」という文言が堂々と記載されるようになりました。私のようなロートル保険医は「予防は保険診療の対象外である」、と叩き込まれて育ったものですからいまだに戸惑いを覚えます。俗っぽくいうと「いいんスかこれ」って感じです。保険診療って疾病に対する現物給付じゃなかったのかよえ───っ
とまれ、疾病を治療する上では治療後の再発を防ぐという意味で予防の概念が必要になるのが実情です。保険診療でいうところの予防とは、この考えだと思います。
そもそも疾病になること自体を防ぐ、というのは理想であって現実的ではありません。私自身は、予防というより「管理」という言葉の方が腑に落ちる思いです。管理という言葉は、世相的に管理社会とか管理教育とは如何なものか、と問いただされてきた経緯があるものですから、拒絶感が示される向きもあるでしょう。私も最初は「患者さんを管理ね…」と拒否感がありました。ただ、臨床経験を積むにつれて患者側と医療者側という関係を考えれば、どう足掻いたって管理は必要で、その上でいかに良い結果に繋げていけるかが腕の見せ所であると思い至るようになりました。
さて予防。
歯科でいう「予防」とは、やはり虫歯の予防と考えるものです。明確に防げうるというエビデンスがあるからだと思います。されど歯科医師側にとっては案外に知識の精度が甘かったり、最新情報を追いきれてなかったりするものではないでしょうか。歯科衛生学ってマイナーな分野だし…(非礼な発言)。
知識そのものが学生時代のそれから変化しておらず薄れつつある……という先生は少数派でありましょうが、さりとて常に最新の情報収集に努めてアップデートし続けて、それを自分の臨床に落とし込んでいる、という先生も少数派でありましょう。大多数は、確固たる基本知識を備えた上で、歯科臨床に携わりながらランダムに到来する情報を蓄え、自身の基本知識を自動修正している、というスタイルではあるまいか。はい、私がそうです。
今回紹介する本は、私のような状態の先生の福音書になると思い、紹介します。
分かっていたようで、ちょっと不確かな知識を修正してくれる内容だと思うからです。
エビデンス元も分かるので論文にあたることもできます。コンパクトながら実用的な内容にまとめられており、執筆者の先生はただ者ではない感があります。変態です(褒め言葉)。
カリエスブック 5ステップで結果が出るう蝕と酸蝕を予防するカリオロジーに基づいた患者教育