2017年07月22日

サニチップ〜3wayシリンジのチップを透明なディスポのものに


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勤務医時代の医院のユニットの3wayシリンジには透明なディスポチップが使用されていた。どことなく長さが不揃いなプラチューブであったから、「ハハー、さては院長の自作か?」と推察したものである。怖かったので聞けずじまいだったが、ある時、勇を鼓して「透明なディスポチップ」の正体について尋ねてみた。名前は忘れたが、普通にディーラーから購入しているとの返答であった。そして、3wayシリンジは意外に汚染されたままになりがちな、感染対策上の盲点であるから、ディスポのやつでいいので患者ごとに必ず交換するシステムしておくべきだと教わったものである。けだし慧眼である。そして、このチップこそがモリタ扱いのサニチップである。

時が経って私も実家の歯科医院に帰り父親と二人三脚で診療を始めたわけだが、これを真似して3wayシリンジのチップをサニチップに変えたものであった。このチップを使用するには、専用のアダプターが必要になるが、この交換は簡単だ。最近ではFEEDで扱っているので購入すら容易。例えば、当院で使用しているスペースラインイムシアなら、モリタ(WS12)のアダプターを購入すれば良いのである。アダプターを購入した時点でサニチップが数本、オマケ(?)で付属してくるのですぐに実践導入できる。チップの交換も容易。アダプター先端はナットになっているから、回して緩め、サニチップを挿入して締めて固定して用いることになる。


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チップはサニチップだけにあらず
アダプターを購入できるFEEDで格安のディスポチップ(FEEDスリーウェイシリンジチップ)を取り扱っている。サニチップに比べて長く、安価である(約6円/本)。気兼ねなく使用できる素晴らしさに満ちている。外来環を算定している医院なら許容できるコストだ。

しかし不満点もある。
それは、完全透明でないことだ。

3wayシリンジは、ユニットにも拠るだろうが、エアーの中に水滴が混じることがある。セット前の補綴物の内面にエアーを吹きかけた時に水滴で湿らせてしまった経験は、誰しもあるだろう。これは恐ろしいことである。例えば、水分の忌避を求められるレジン接着操作時に水が吹きかけられる危険性があるからである。水と油(レジン)は犬猿の仲であるからエア乾燥の操作が重要であるのに、水が混じってしまっては元も子もない。思いもがけないレジン接着の失敗の原因は、こんなところにあるのではないか。水分を確実に除外したエアーブローのために、我々はエアダスター缶を用意するべきかもしれない。

仮にシリンジチップが透明であれば、混入した水分はエアに押されてチップ内部を移動してくるのが目視できる。重要なエアーブロー操作の前に、チップ内への水分の混入がないことを確認することができる。デフォルトの金属チップやFEEDスリーウェイシリンジチップでは、これは確認できない。しばらくエアを出しっぱなしにして予防するのがせいぜいであろう。

そんなわけで当院では、レジン接着操作(CR、直接法コア、接着性レジンセメントなど)時にはサニチップ、それ以外の場面ではFEEDスリーウェイシリンジチップを用いている。サニチップがもう少し安くなってくれるか、FEEDスリーウェイシリンジが完全透明になってくれることを祈るばかりだ。
 

2017年07月13日

Q.歯科医師という職業ってどう?


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A.儲かりません!

半分冗談で、まずこう答えておかなくてはならないのが礼儀です。

過去に散々バブリーな様を世間に見せつけた職業でありますから、いまだに「歯科医=金持ち・成金」という図式と偏見が、ことに地方社会で根強かったりします。「儲かるか儲からないか」で言えば、儲からない職業です。院長だぞエヘンと威張ったところで、せいぜい中小企業の社長さんですし、年収もそれ以下でしょう。自費診療メインであればともかく、保険診療を主体とする歯科医業の収入は、平均ちょっと上あたりのサラリーマンクラスです。開業医は、給料とボーナスを支給する側で、年金は国民年金オンリー(老後の設計が不可欠)の「ガチ自営業」です。歯科医師会に所属しても金銭的・社会的に生活が保証されるわけでも保護されることもありません。「勤め人」と違って仕事形態に自由が大きいことは魅力的ですが、医院経営の責任が常に肩にズシリとのしかかります。勤務医の方が楽だったと愚痴をこぼす先生や、従業員に給料を支払うためだけに(雇用のために)歯科医院を開いている先生も少なくありません。

ゴタゴタと言い訳がましい否定をするってことは、実は儲かる職業だな?と早合点するオメデタイ人はともかく、世間様が羨むほどお金を稼げる職業ではないことは旗幟を鮮明にしなくてはなりません。嘘をついてはいけないからです。そもそも、歯医者の経済的実体がマスコミなんぞに面白おかしく報じられたものですから、異業種、ことに経済界の面々からは「歯医者さん、いま大変なんですね」と同情される始末であります。歯医者になったもん勝ちの時代は遠い過去のことでありまして、進路指導の先生だけでなく、保護者の皆さんも、生徒やご子息に歯医者さんになるよう勧めることはないと聞きます。しかし、これでいいと思います。「話が違うやないか」と言われても困りますし、歯医者は、歯科医師免許を取った後の自由が乏しい(要するに「潰しが利かない」)からです。

「歯医者は、やり方次第でいまでも稼げる仕事」と口にするのは鼻息の荒いコンサルか業界通を装う輩ぐらいのもので、大多数の歯科医師はさして興味がありません。やり方次第で稼げるのは歯科医業に限りませんし、「悪い奴もいるけどいい奴もいる理論」と同じで、だから何ってなもんです。身体を犠牲に、身を粉にして忙しく診療に励めば、実入りは大きくなりますが、ストレスとして跳ね返ってきますし納税額も大きくなります。

稼ぐというのは、月の手取りが最低でも1000万を割らないような、およそ世間離れした話になるわけで、その世界を謳歌している歯科医師はほとんどいないはずです。今の時代、稼ごうと思ったら金融か悪徳政治家か芸能界でひと旗あげるか裏稼業に身を投じることになるでしょう。稼ごうと思って歯医者になった人はいないのであります。平均以上に裕福であれば嬉しいな、ぐらいの気持ちです。悲劇的なことは、この望みすら最近では実現が難しくなってきていることです。

歯科医師に限った話ではありませんが、社会的地位の高さと金銭収入はリンクしなくなりました。高い社会的地位を維持するには弛まぬ自己研鑽が不可欠であって、高い金銭収入はその約束であったわけです。これがないと、自己研鑽への資金を生活費から捻出することになっていきます。自己研鑽より己の生活を優先するのは当然のことです。貧しいとは学べないことですから、金銭収入が約束されない職業は、社会的地位も意義も凋落していくことになります。少なくとも私は自費診療の報酬から自己研鑽の費用を得ています。



歯科医師になっていいことあるのか?
数字は残酷なので、金銭面でみると歯科医師は決して魅力的な職業ではありません。むしろマゾヒズムに満ちています。それでいて一方的に責任や社会通念を押し付けられるところがありますから、窮屈さを感じることすらあります。歯科医師を目指すことは容易ですが、学費と国家試験の突破、その後の下済み時代の生活のことなどを考えると高いハードルがあることも自明です。

歯科医師の魅力は、その専門性を活かした社会貢献にこそ全てがあると思います。「たかが歯。されど歯」は、私の師匠の言葉ですが、本当に、歯の一本が痛いだけでも人は気分が沈みこんでしまう。生活に暗い陰がおちるのです。歯を病むと、独特の緊張感(生存活動を維持していく上での危機感)に見舞われます。自然界に生きる動物たちにとって歯の喪失は死を意味するように、歯を失うことへの根源的な恐怖心が人間にも残っているからでしょう。

学生時代、医療倫理学で「患者とは、心に串が刺さった人のことである」と教えられたことを覚えています。「歯」に悩む患者の心理状態を理解し、推察し、配慮し、救いの手を差し出せるのは歯科医師だけです。人間を治せるのは人間だけであり、医療というのは感情の塊である人間同士のぶつかり合いの中で癒しを見つけ出す技術です。 歯科医業は、老若男女とわず全ての人の口腔内の健康に寄与できる機会を与えられた医療職といえます。

仕事のメインは保険診療になります。自費診療も加わりますが、自費をメインに据えた先生は少数派です。診療室から飛び出して、検診業務や啓蒙活動を行う機会も少なくありません。また、訪問診療のニーズに答え、来院の難しい患者さんに寄り添うこともできます。歯科医師の社会的地位の高さから、なんらかの形で地域行政の仕事を依頼されることもあります(NPOの理事や民生委員や町会議員・市会議員など)。

少なくとも私は歯科医師という職業に就けてよかったと思っています。やりがいを覚えます。

歯科医療に関する知識やテクニックは一生かかってもマスターしきれないほどありますし、患者さんとのコミュニケーションは患者さん数と出会いだけあります。歯科医師としての練度を高めようと思ったとき、深淵のような奥深さを覚えますし、なにより歯科の仕事が好きだからです。

無論、私も感情的な人間なので、相性が悪いと感じて接触を避けたい種の患者さんも抱えてはいますし、食指の動かない内容の仕事もあります。けれども、起床して「よっしゃ仕事いくぞ!」と抵抗なく考えている自分がいることは幸福なことだと思います。

金銭的にゆとりのある生活とは無縁ですし、嫁に稼ぎの悪さで甲斐性なしと罵られることもある点では苦痛を覚えますが、食べていけないほどの貧窮はありません。なにより開業医というのは、結局のところ地域住民に貢献し、健康に寄与し、信頼と支持を得られることに尊さがありますから、言ってみれば名誉職のようなところがあります。あの人は名医だとか地元の名士だと言われることほど開業医として嬉しいことはないものですし、絶対の評価もないものです。これは、歯科医師国家資格と同様、お金で得られるものではありません。どうです、魅力的な仕事に思えませんか?



※ 「手に職」と言えば医療職で、その信仰はいまも根強いですが、今後も手堅いままであろうと考えられるのは看護師だと思われます。ペーペーの歯科医師よりも衛生士の方が待遇がいいのと同様に、看護師さんの地位が相対的に高まっていく一方になるのではと考えています。お医者さんは病魔を克服して患者を救う一方で、社会的制約を理由に患者の延命を宣言しなくてはならない場面が出てくる立場になるのではないかと思います。しかし、歯医者ほど冷遇されることはないでしょうから、医学部人気は今後もずっと続くことでしょう。
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2017年07月02日

下顎前歯の二根管症例(Weine3型)

下顎前歯の根管治療に遭遇する頻度はさほど高くはない。
全ての歯科医師が周知しているように、下顎前歯部は唾液腺の開口部領域にあることからう蝕になりにくく、寿命が長い歯だからである。

と思いきや、昨今の高齢化社会では老人の根面う蝕の発生に伴って、下顎前歯もその猛威に晒され、歯髄炎や歯髄死に継発する感染根管、また歯冠破折による露髄残根に陥っている場面に遭遇することがある。統計がとられているかは知らないが、増えているのではないか。虫歯の治療の経験がなく歯に自信をもつ高齢者の歯が根面う蝕に刈り取られている姿が眼に浮かぶ。

う蝕になりにくい下顎前歯部根面う蝕をきたすのは、咀嚼能力が落ちてくることで食べやすい加工食品(ことに菓子パン)を食べるようになることのプラーク付着や、唾液分泌量低下の影響があるものと思われる。不思議と菓子パンを好む高齢者は多い。彼らにとって甘いものは「蜜」であり、贅沢品であり、耽溺したい対象になっているのか。油と糖質の塊は、確かにパンチの効いた美味を提供してくれるものであることは分かるのだが。こうしたものは嗜好品の範疇なので常食すべきではあるまい。


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そんなかんだで、下顎前歯部の根管治療の依頼を受けたケース。術前写真で2根管性であることは明らか。

下顎前歯がいかなる場合であれ単根管であると考えるのは軽率で、実のところ、低い確率ながら複根管であることを忘れてはならない。下顎前歯の歯の解剖に関しては、その昔に先人たちが報告した通りである。下顎前歯では、歯根が唇舌的に広く近遠心的に狭いが、約半分の根で2根管性である。その場合の大半は根尖1/3で融合して根尖部で単根管となる(Weine分類1 でいう2型)。根尖部で合流しない、純粋な2根管性(Weine分類でいう3型)は1.3%程度の出現率とされている2.3

上顎大臼歯の根管治療でMB2の存在を常に意識するように、下顎前歯の根管治療に際して我々は、複根管の存在を意識しなくてはならない。根尖部で合流するタイプのものが多いとはいえ、根管の見落としは除去すべき有機質を見逃すことに他ならないからである。2根管性の場合、舌側が発見しづらいことが多いため、アクセス窩洞のアウトラインを唇舌方向に大きくとらざるを得ない。不必要な歯質削除は常に慎まなくてはならないが、発見すべき根管を見落とす可能性が高いのであれば、拡大的切削は許容されるだろう。どのみち複根管が発見された場合、円滑な根管治療のために更に窩洞が削除されることになる。レアなケースと思われるが、Tzvetelina G. Gueorgieva4 ら は3根管の下顎側切歯の症例を報告している。しかしこれすらも、アクセス窩洞を大きく確保することで解決されるものである。

術前写真でお分かりのように、根面う蝕を除去していけば残根に近い状態となり、結果として根管口はモロ見えとなるわけであるから根管は簡単に発見できた。スタート地点が恵まれていただけで、もしインタクトなケースであったら労を要することだろう。

10Kでネゴシエーションし、プログライダーでグライドパス形成を行ってからNEX20/.04⇨ウェーブワンゴールド:プライマリで拡大形成を行なった。根管洗浄は17%EDTAとヒポクロをクイックエンドを用いて頻繁に行なっている。クイックエンドと滅菌ペーパーポイントで根管の乾燥を得てレシプロックガッタパーチャR25をAHプラスを用いてCWCTで根管充填を終えた。

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下顎前歯部の根管治療をする際は、術前のレントゲン写真を正放線に加えて偏心投影でも撮影するべきだろう。髄腔開拡に際しては、見落としを防ぐために唇舌方向に大きくとることも必要となる。マイクロを所有されている先生であれば、複根管を目で確認できる面でいよいよ有利である(羨望)



1.Franklin S. Weine. Endodontic Therapy, 5e 5th Edition,1996:243-244
2.Vertucci FJ. Root canal anatomy of the human permanent teeth. Oral Surgery 1984;58:589-599
3.Benjamin KA, Dowson J. Incidence of two root canals in human mandibular incisor teeth.
Oral Surgery 197438:122-126
4.Tzvetelina G. Gueorgieva , Rahaf A. Mohamed ENDODONTIC TREATMENT OF LOWER LATERAL INCISOR WITH THREE ROOT CANALS – CASE REPORT. Journal of IMAB - Annual Proceeding (Scientific Papers) 2013, vol. 19, book 2
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2017年06月26日

手には相性の良いグローブを


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子どもの頃、誰しもが夢想したことであろうカテゴリが「パワーアップグッズの装着」である。靴でも、時計でも、スーツでも、なんらかのガジェットを装着するとパワーアップできるアレだ。すごいパワーが出たり、潜在能力が100%発揮されたり、無敵になったり……現実の娯楽は尽くるとも、世に夢想のネタは尽きまじ。

大人になったらそんなものはないことを悟るわけであるが、さりとて、仕事の効率をサポートしてくれたり、特定の作業において無類のパフォーマンスを発揮するアイテムは存在するものだ。もっとも、これは仕事に限らず、趣味や遊びの舞台でも同じことが言える。使い勝手が良く望む結果を導いてくれる相棒のような道具を、我々は求めるのである。であるからこそ、様々なツールが、どの分野においても豊富にラインナップされているのである。人間は相性の良い道具探し明け暮れるものだ


最近、こうした気持ちを強く意識されられた診療用グローブがある。ここでも書いたが、FEEDのベーシックグローブ(パウダーなし)である。装着してエンドをすると上手になった気がする。少なくとも私にとって、とてても相性が良いグローブだ。

世間には安いものから高いものまで、様々な診療用グローブが存在するが、私はコスト管理に明け暮れる開業医の宿命もあって「安いやつ」を安けりゃいいの精神で使っていたのである(だって使い捨てなんですもの)。

高いグローブは、あれは自費診療をされる先生が、そのゴッドハンドっぷりを妨げることのない上質さを備えた一流品であり、装着するグローブに多くを求める先生用なのであろうと考えていた。一方で、値段が高めのグローブを使うと、診療が捗るのだろうかとも考えていた。

このFEEDのベーシック・グローブは、さして高級な類のプライスではない。むしろ安めの部類だろう。「新発売だよ!お試し100円セール」のチラシを見て、何気なく購入したに過ぎなかった。結果、格段に使用感が良いことに驚き、喜んだのであった。

世の中には、このグローブよりも私を歓喜させるグローブがあることだろう。値段さえ目を瞑れば試し放題なので、いつかは探し当てられるものと思われる。しかし、それを探し求めるほどの熱意は私にはない。「もうこれでええわ」の精神である。妥協といえばそれまでだが、しばしこのグローブの世話になろうと思う。満足しているのである。

なお、ベーシックに対してハイグレードも存在する。値段分の良さが上乗せされた出来になっている。難しめの抜歯処置や外科的挺出、フラップなど、ちょっと特別な外科処置用にしてある。
ガウンとか手術着とか装着すると意識が変わって気分が引き締まるものだが、そんな感じ。
 

2017年06月17日

SEC1-0は、「開かない根管をあけるか?


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答え
信頼に足る「あけっぷり」披露してくれます


買ってよかったSEC1-0。今となっては注水機能があるKAVO製の方を買えばよかったと思わないでもない。しかし、それは予算が許さなかった。購入したのは、等速コントラVM-YとEC-30で、ナカニシ(NSK)製である。

ここのところ色々と使ってみて「この場面で使えるなあ」と分かってきたところがある。
私見混じりではあるが記事にしてみようと思う。


根管を「あける」とは
根管本来の走行から逸脱せず、手用ファイルを根尖まで到達させることと理解している。エンジンリーマーや、ウォッチワインディングで人工根管をこしらえてしまう行為は「開ける」とは言わない。根管もどきをこしらえた穿孔に過ぎないからである。一見してEMRでアピカルロケート反応を示すようになるのでネゴシエーションができたと勘違いしやすいだけだ。こうした根管は、根充の確認デンタルで、やたらストレートで不自然に根充材が充填されているので、すぐにそれと分かる。根尖を触っているにしても、無菌的なところを穿っているだけなので、本来の病変が治癒に向かうことはない。その後の再根管治療も絶望的になる。


そんなわけで、「開ける」のは、

@抜髄や歯髄死などのイニシャルトリートメントにおける、ネゴシエーション
A手用ファイルで根尖までファイルを到達させられない「閉鎖疑惑」のある根管のネゴシエーション

の場面を言う。

@は手用ファイルでも達成するのが一般的だが、その際のファイルの動かし方は、回すのではなく上下に細かく動かして(ファイルを抜き差しするような動かし方)根尖までファイルを送るものである。ネゴシエーション後にファイル先端を根尖に出した状態で、更に上下に30回以上小刻みに動かして根管の交通を確実にする操作があるから、手早く楽に終えられる意味でSEC1-0を用いた方が楽なのである。

Aは想像しただけでファイルを把持する指先が痛くなってきそうなシンドイ仕事で、エンド中の歯科医師の気力をゴリゴリと削ぐ大敵でもある。しかしこれをSEC1-0で達成できるとすればどうだろう?SEC1-0は手用ファイルに上下0.4mmの往復運動を与えるものであって、基本的に本来の根管から逸脱して「あける」ことが予防される。疲労軽軽減と併せて、ありがたいことが分かるだろう。

このふたつの「開ける操作」を、SEC1-0を用いることで高確率で達成できることを私はお伝えしたい。


解説
@:マニー08Kファイルがファーストチョイス。根管内は湿潤した状態で、ファイルにRC-Prepのような潤滑剤をつけて操作することが望まれる。乾燥した状態だと、根管壁から余計な削片が生じて根尖に押し出してしまい、術後疼痛につながるからである。

抜髄時を例に具体的な使い方を述べると、根管口を発見したら、即座にマニー08KをSEC1-0に装着してネゴシエーションを狙う。パワーは小→大と適宜変化させながら用いる。最初からフルパワーだと患者さんがびっくりするので、根管口よりファイルを挿入して小さなパワーで動作させ、ファイルが食い込むような感じで「根管を捉えた」ら、徐々に強くしていくと良い。次第にファイルが根尖方向に沈んでいくようにして穿通を達成できるはずだ。

EMRと連動させたいなら、エンドミニ(FEEDで購入可)を用いると良い。感覚が鋭敏な先生であれば、EMRと連動させなくてもネゴシエーションできた「瞬間」が感触で分かる。私は感覚がどうにもdullなのでエンドミニとの併用がほとんどである。

ネゴシエーションして、ファイル先端を根尖より突き出した状態で、しばらく動作させ続けて根管の交通を確実にする。この後は、手用10Kで穿通させるもよし、SEC1-0に10Kを装着して同様の操作をするもよしである。

最近のNitiファイルを用いた根管形成のプロトコルでは、10Kでネゴシエーションできたら即座にグライドパス形成用NiTiでグライドパス形成を行うことになっているので、それに倣うのも良い。個人的には10Kでネゴシエーションした後にグライドパス形成用NiTiファイルでグライドパス形成に移るのは、根管とファイルとの干渉がまだ大きすぎると考えているため、手用15Kを根尖まで到達させた後に行うようにしている。10Kでネゴシエーションした後に、ゲイツドリルや35/.08用いて根管口を明示し、15Kを少しでも抵抗なく根尖到達できるよう整理するのである。時間はかかってしまうが、グライドパス形成用NiTiファイルの破折を予防したいことと、ロータリー運動をするグライドパス形成用NiTiファイルをレッジ防止の観点から、とにかくスムースに根尖に達して欲しいと願うからである。グライドパス形成用NiTiファイルがスムースに根尖まで達することができれば、その後の拡大形成はほとんど成功を約束されたものになる。


A:閉鎖根管とは、ファイル本来の根管に到達させられない場合や、石灰化物等で根管が閉塞してファイルを根尖に到達させられない場合をいう。

前者の場合は、基本的に根尖までファイルを到達させられないと根尖へ通じる通路内の感染源を取り残してしまうことを意味する。事実、予後を悪くする。どうしても根尖までファイルを到達させられず、根尖病変の活動を削ぐことができないなら、それは根管内からのアプローチの限界を意味するから、外科的に根尖を除去するステージに移行することになる。

後者の場合、EMRが3.0以下に触れていかないことから、ある程度の信頼性の元に診断が可能である。また、こうした閉鎖根管はたとえ開かなくても予後は悪くなかったりする(触れられる範囲の感染源を徹底除去すれば良い)。閉塞根管であったとしても、一方的なマイナスを意味しない点では安堵の余地がある。断定することはできないが、閉鎖根管を無理に開ける必要性はないのかもしれない。それでも、開けられるなら開けたいと思うのがエンドに挑戦する歯科医師の心理であろう。実際、開けられるなら、開けた方が根管の無菌性獲得の可能性の面で良いはずである。開けられる可能性があるなら、開けることに挑戦して良さそうだ。ただ、これを自分の手指で達成しようとすると手間である。シンドイ思いをして時間を要して、ようやく開いたと思ったら人工根管であったとしたら泣くに泣けない。

SEC1-0は、繰り返して述べるが、基本的に上下0.4mmの運動を手用ファイルに与えるものである。閉鎖根管を開けるために手用ファイルを根管内で回転させても、ファイルはジップ形成するのが関の山である。開けるためには、ファイルに与える運動を上下運動だけに絞り、本来の根管に落とし込まなくてはならない。落とし込んだあとなら、ファイル根尖方向に移動させる意味でファイルを回すリーミングは許容されるが、ウォッチワインディングやバランスドフォースの方が無難である。このために、我々はファイル先端にプレカーブを付与することがあるのである。これは想像するだけで気が滅入るシンドイ仕事なのであるが、SEC1-0を用いることで楽に実現できる。

本来の根管を捉えた、純然の閉鎖根管であればストレートの08Kで攻めると開けられること多い。SEC1-0でKファイルを上下運動させているうちにファイルが少しずつ根尖側に移動して行き、穿通する感じだ。穿通したら、抜髄の時と同様、穿通させた状態でしばらく動作させ続けて根管の交通を確実にすると良い。その後はさしたる労力もなく10Kで穿通させられるはずである。

本来の根管を捉えているか分からない場合は、プレカーブを付与した08Kか10Kで穿通を狙う。
SEC1-0は、ハイパワー時にファイルが上下運動振動によってトルクのない自然な回転をする。これは、手用ファイルになんら規制する力が加わっていない場合に見られる現象で、回転はラバーストッパーをみれば確認できる。プレカーブを付与したファイルを用いるのは、この自然な回転と上下運動の組み合わせで本来の根管にファイルを落とし込ませて一気に根尖まで穿通させるためである。己の手指でこの作業をしようものなら術者が発狂しかねないが、SEC1-0があれば極めて早く正確にこれを達成しようとしてくれるのである。なお、エンドミニを装着しているとファイルに把持力が加わるためか、この自然な回転が見られなくなることが多い(なので、エンドミニを外した状態で行うほうが確実だ)。

08Kや10Kを用いても開かなかったら、多少の根尖部の破壊を犠牲に、僅かにプレカーブを付与した15Hで穿通を狙ってもよい。うまくいくことがあるからである。しかし、これで開けると根尖部の破壊を伴うために根尖部からの出血を覚悟しなくてはならない。術後疼痛も大きく出やすいようだ。そこまでして開けて良い予後に繋げられるものかどうか、一考の余地が残される。

これらの一連の操作で開かなかったら、「もうこれは開けることはできない閉鎖根管である」と診断すればよい。触れる範囲までを徹底的に清掃すればよいのである。



エンドにおいては、「開かない根管を開けられるようになりたい!」と誰しもが強く願うものではなかろうか。歯医者になりたてぺーぺーの頃の私は、その念に強くとらわれていたことを思い出す。エンドは好きだけど苦手で、藁をもすがる思いで、東海林芳朗先生のエンドセミナーに参加を決意したことも昨日のように思い出す。それから更に数年を経ていま私はSEC1-0を手にするようになった。ほんとうに、感慨深いものがある。

タグ:SEC1-0
posted by ぎゅんた at 22:32| Comment(13) | TrackBack(0) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする