2025年12月03日

しょっ、掌蹠膿疱症性骨関節炎だって〜?

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毎号毎号、読み応えのある論文が掲載されるハイクオリティ会誌である「日本歯科医師会雑誌」ですが、わけても今月号は衝撃だった。皮膚科医の先生が書かれた掌蹠膿疱症についてのペーパーなのだが、スレッジハンマーで胴体を射抜かれたような衝撃ある内容だったからだ。


抜粋的に挙げると

・掌蹠膿疱症患者の10-30%に掌蹠膿疱症性骨関節炎という難病を発症する
・掌蹠膿疱症の原因と考えられていた歯科用金属アレルギーは、その関与はごく低い。少なくとも掌蹠膿疱症性骨関節炎とは無関係
・歯性病巣感染の存在が掌蹠膿疱症の発症に関与している

こんなところである。

こうやって抜粋すればシンプルであるが、しかし、多くの歯科医は衝撃を受けるはずだ。
掌蹠膿疱症の患者の治療にあたったことのある歯科医師であればなおさらのことである。関与している歯性病巣感染は、根尖性歯周炎・中等度以上のP・智歯周囲炎3つであり、これは歯科医師は日常的に相手にしている歯科疾患なのだから。

漫然と繰り返されてきたであろう「金属アレルギーが原因だから、口腔内をメタルフリーにしよう」や、「掌蹠膿疱症は皮膚科を受診してください」等のアプローチは間違いとは言わないまでも正解ではなかった。歯性病巣感染の存在確認とその根絶が優先されるのだ。もしそのことで掌蹠膿疱症が明確に緩解させられるとすれば、これは歯科界にとって革命級のインパクトがある。と同時に、医原性の歯性病巣感染の発生を決して許してはならない土壌が生まれることになる。

ことに根尖性歯周炎の治療には大きな責任が問われることになる。「根管治療後の予後が期待はずれだったが、とりあえず抜歯は避けられたから合格点…」という逃げは通用しない。外科的歯内療法や抜歯を積極的に選択して病巣感染を確実に除去する視野を持たねばならない。

根管治療は、慢性炎症化してしまうと痛みが気にならないレベルに落ちてしまい、いきおい臨床上は「痛みがない」という評価で一応の決着がついてしまう点で治療判定が曖昧な部分を残すが、皮肉にもそれが根管治療を受けた患者の顎骨内に病巣感染を植え付けていたとも言える。あまり声を大きくできない話題ではあろう。

もっとも、歯性病巣感染を有するからと必ずしも掌蹠膿疱症を発症するわけではないだろう。オルソパントモ撮影で術者が慄然とするような根尖病変まみれの患者でも、掌蹠膿疱症?ナニソレだったりするものだ。現実は教科書どおりではない。

しかし、身体の中に慢性炎症が存在し続けるメリットはないし、病巣感染説という概念もある。歯科医師は口腔領域の炎症を排除して全身の健康状態を改善させられうる仕事をしている。ただし、かなりの真剣勝負になるだろう。テキトーに保険診療をやっているレベルでは太刀打ちできない。歯科医師の仕事は、何十年を費やしても味わい尽くせないほど課題と展望と達成感と患者の喜びが得られる奥深さのある稀有なものなのだと思う。いささか自らを戒むる思いを込めて。
 
posted by ぎゅんた at 23:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 根治(考察) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年11月23日

ニシカキャナルシーラーBGmulti 長期経過症例

「根管治療の目的は根尖性歯周炎の予防と治療」という概念は広く理解されているが、そのためには根管充填というステップを踏まなくてはならない。

根管充填という言葉を前にすると、私のようなロートルは「側方加圧充填か垂直加圧充填のどっちを採用するか」とか「オーバーかアンダーか論争」とか往時の状況を想起してしまうのだが、これは根尖の治癒のための原理原則よりもテクニック如何に拘泥する悪しき文化である。重要なのは無菌的に消毒した根管を根尖部を中心に封鎖してしまうことである。根尖を無用に破壊せず刺激せず、根尖部は側枝を含めて徹底消毒したうえで緊密に封鎖することである。言葉にすると簡単だが、実際に言葉通りに簡単なら、世の中の先生がたはエンドに対して明るい表情をするはずである。

昨今ではバイオセラミックス系シーラーを糊剤根充するいきおいで根管に満たした後に添え物的にガッタパーチャポイント(GP)を挿入するだけの Hydraulic condensation technique が根管充填のメインストリームになっている(のか?)ようである。私のようなロートルは「加圧しないと気が済まない」ので、形成した根管のテーパーに規格合致したマスターポイントをシーラー併用で挿入し、隙間があればアクセサリーポイントを満たして垂直加圧用プラガーで切断した後にちょい垂直加圧する手法をとって精神の安定を保っているところだ。


根管充填のお供であるシーラーに何を用いるかは重要な課題ではない。シーラーが根尖病変を治すわけではないからだ。術者が扱いやすい、哲学に合致しており、かつ相性の良いものであれば間違いはないであろう。

その一方で、長期的な封鎖を維持してくれる信頼性は欲しいと考える。かつて愛用していたAHプラスやMTAフィラペックスはレジン系シーラーであり、生体為害性と硬化後の収縮は避けられないだろうとの疑念を払拭できず、ニシカのキャナルシーラーBGに移行した覚えがある。

最近はOne-Filを使用しているが、それはプレミックスで扱いやすいこととシーラーの流動性が高いこととバイオセラミック系の諸性能に期待する面が大きいからだ(とはいえ価格帯的には高価寄りのシーラーであるし、たしか韓国製なので円安が進めば無慈悲な値上げを喰らう可能性があるので使い続けるかは検討課題)。いまのところ術後経過が良好なので良いシーラーだろうと思っている。




さて本記事タイトルにある通りで、ニシカキャナルシーラーBGを用いて根管充填を行った長期症例が得られたので報告だけ。

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2018年2月 根尖病変の治療依頼で感染根管治療開始

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難しいことは何もない。根管を見つけてネゴシエーションしてpatencyを確保してNiTiファイルで根管の拡大形成を行い根管洗浄を徹底して根管充填するだけ。根管洗浄液はEDTAとヒポクロ、エンドアクティベーター併用。バックフィルが適当過ぎる……

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2025年11月 経過確認で撮影。近心の根尖部の病変がほぼ理想的に消失している。

こういう症例があると自分のエンドを信じても良いと少しは思えるし、信頼できる歯科材料と出会えているのだなと気持ちが晴れたりするのである。
 
ラベル:シーラー
posted by ぎゅんた at 00:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年10月29日

PEEKクラウン友の会(現在の会員数1名)


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PEEKへの深い愛を感じた論文♡

最近のお気に入りの補綴物がPEEKクラウン(PEEK冠)です。
大臼歯の単冠補綴がPEEKまみれになってます。こんな使いやすいクラウンが保険収載されて最高!厚労省に足を向けて寝ることができないぜって感じなんであります。

さはさりながら、私が仄聞したところ世の先生方にとってPEEKクラウンは人気がないようです。知人・友人の歯科医師も「なんどか試してみたけど今はもうやめた」なんて述べる。いつもお世話になってるラボの営業さんは「先生のところは異常に数が出てて困惑してます」と珍妙なコメント。

PEEKクラウンは不人気なのか?

考えつく限り、いくつかの理由が挙げられます。



まずは見た目
出た当初はTEK然としたアイボリーな見た目でしたが、今はヤケクソ・ホワイトというべき白色が選べるようになり幾分かマシな見た目になりました。保険CAD/CAMと同様、保険診療で大臼歯にメタルレスで単冠補綴できる選択は患者にとって福音でありましょう。とはいえ天然歯と比べるべくもない不自然な見た目ですから、審美性に優れているわけではありません。

しかし、保険CAD/CAMクラウンにしても正直「まあこんなもん」って水準ですから悲観するに及びません。

思うに、保険診療は機能回復、それも咬合支持の大臼歯なのですから割り切りが必要です。患者さんにしても「保険で白色の歯が入るんならそれで」と文句も言わない方が大半です。見た目的にアレな白色の歯ではありますが、概ね「銀歯じゃないなら良いよ!」と好意的であります。今の所、見た目が原因でリジェクト喰らったことはありません。

歯科補綴は保険/自費関係なく審美を追求する性格がありますから、PEEKの見た目に心理的な拒絶が出るのはやむを得ません。ただ、患者さんはその辺を案外に気にしないので、思い切ってやってみましょう。単純に述べれば、患者さんは「保険でさっさと白い歯を入れてくれる」歯医者さんを求めているので、それに付き合えば良いだけです。



次に物性
破折しないのか?脱離しないのか?

ハイブリッドレジンのそれと異なる感触があります。粘っこいわけではないが、硬質ではない。咬合調整しても、削っているというよりは捲っている感触というか、良く言えば今までにない独特さがあり、悪く言えば気色悪い感触です。靭性があって破断しにくそうに思える一方、クラウンにたわみが生じるなら脱離力に転化するかもしれない。PEEKクラウンはまだ超長期経過報告がないので予後に未知数の面を残します。

なお、私の臨床例ではいまだに脱離も破折もありません。支台歯が歯根破折や重度歯周炎に移行することで結果としてダメになった例はありますが、これはPEEKの物性とは特に関係はなく、単なる主治医の力量不足であります。

接着は松風のCADCAMレジン用アドヒーシブ用いた上で同社のビューティリンクSAで行っております。
光照射のステップが煩わしい先生はクルツァーのZENユニバーサルセメントでの接着が良いでしょう。



そして支台歯形成量
これは私のお気に入りポイント。なぜなら、PEEKクラウンの支台歯形成のクリアランスは、全部鋳造冠のそれ+αで達成できるからです。これは大きい。保険CAD/CAMの支台歯形成は、私みたいな小心者は気絶しそうなほどのクリアランスを求められるので、形成してて失禁してしまうからです。歯科理工学的に導かれる形成量であることはもちろん分かるのですが「まあこんなもん」の見た目のためにあれだけ削るのは……失活歯ならまだしも、生活歯では怖くてできません。デンチンエナメル・ノーリターンという格言を思い出します。



んでもって研磨性
ここは不満が残る点です。
いまのところ、満足のいくような滑沢な研磨面が得られないからです。どうしても、なんとなく研磨不足感が残ります。そういうモノのようです。しかし「こんな感じでいいのだろうか?」と後ろ髪を引かれる思いで接着操作に移るのは地味にストレスです。

PEEKクラウンは、納品の時点では輝いていますが、あれは仕上げの段階でコート剤(ラボに聞いた話ではヤマキンの『ヌールコートクリア』)を塗布しているためで、我々がチェアサイドで下手に真似をすると折角の咬合調整が台無しになります。咬合調整で触れた箇所は光沢がなくなるのはやむなしと割り切りましょう。

PEEKクラウンの修正と研磨は、私はいまも試行錯誤していますが、基本は
咬合調整:技工用ダイヤモンドポイント、カーボランダムポイント
咬合調整+研磨:松風シリコンポイントPタイプ
仕上げ研磨:CR研磨用のシリコンポイント
艶出し:レジンポリ

この方法がいいぜ!って情報をお持ちの先生のコメントをお待ちしております。



最後に補綴物としての精度の課題
現状、PEEKクラウンだけでなく保険CAD/CAM冠もチタンクラウンも連合印象で提供されていますが、これらは本来は光学印象を経て作製されるものです。光学印象のデータがラボに行き、そこからPC-ミリングマシンの工程で作製されるもののようです(現場を見たことがないので伝聞)。

換言すれば、我々が作成した石膏模型が指示書と共にラボに送られると、テクニシャンは石膏模型を光学印象して作製されるということです。適切な支台歯形成と印象採得が行われ、石膏模型の精度が高ければ問題は起きないでしょう。ただ、肝心のクラウンの精度を追求するなら支台歯形成後は光学印象を行うべき、ということになろうかと思います。なんだか間尺に合わない話ではあります。

今のところ光学印象で加算がつくのはCAD/CAMインレーだけであり、PEEKクラウンもチタンクラウンも保険CAD/CAMも加算がありません。とりあえずは適切な支台歯形成と印象採得と石膏模型作製が歯科医師側に課せられている状況と言えます。おそらく、次回の保険改定で「口腔内スキャナで印象採得して作成していいよ」と修正が入るのではないでしょうか。光学印象加算がつくかはわかりません。CAD/CAMインレーにはついているので付きそうな気がしますが、よしんば加算がついたとしても、連合印象の方の点数が削られるといういつものパターンになると思います。いい加減にしろクソ



今後の予想
金銀パラジウムの価格高騰で、保険金属としての金パラは今後は使用制限がかかりそうに思えます。メタルフリーの機運もあるので金パラの保険外しが起こりうるのではないでしょうか(もしくは、使用はできるが逆ザヤに近い点数にされる)。その場合は、PEEKクラウンとチタンクラウンの適応範囲の拡大ということを代替案にしてくると思われるので、補綴物の精度を追求する上でも光学印象ができる体制にしておいた方が良さそうです。でも、そういう流れになっても光学印象加算はつけなさそうな気がするんだよね。いい加減にしろクソ

ラベル:PEEK冠
posted by ぎゅんた at 00:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする